――1月にトランプ政権が誕生するとEV(電気自動車)には逆風になりそうですが、セパレーター向け投資を軌道修正する考えはないでしょうか。
2023年4月の時点で北米向けのセパレーター投資は決まりかけていました。ですが経営会議や取締役会の場で、リスクに対する対応が不十分だということで、さらに検討を加えることになりました。その結果、1年遅らせた2024年4月に、カナダで工場を建設することを決定し、1800億円の投資をすることになりました。結局、当社が75%、ホンダが25%を出資する合弁会社を設立します。
ほかの電池メーカー含めキャパシティライト契約(特定の顧客に対して、一定期間・一定量の生産供給能力を優先利用する権利を販売する契約)の交渉をしています。日本政策投資銀行からの出資もあり、カナダ政府から補助金も出ますので、1800億円の投資金額のうち、当社からの資金負担は600億〜700億円程度になり、資金面のリスク分散になっています。また垂直統合的に、出口の需要を綿密に想定した計画になっています。
しかし「EVの需要面が厳しくなるのでは」「政権が代わると違う風が吹くのでは」という懸念があったのは事実です。トランプ政権になった場合の想定はしていました。投資を計画した時には、2030年の北米のLIB用セパレーター需要は50億平米から60億平米くらいにはなるだろうと思っていました。いまのシナリオでは、悪くても約30億平米と厳しい予想がされる中で、今回の投資で想定している生産能力は約7億平米です。
風向きが変わったことで、中国企業などの競合が米国に進出する予定の投資は全てペンディングになっていて、投資を決めたのは当社だけです。このため供給が減るので、2027年に生産を始める当社は、手堅くビジネスができるとみています。
当初案ではそれ以降の生産能力拡大については、できるだけ早く投資をする計画でした。EVの不確実性が増していることもあり、極めて慎重に投資を進める方針を変更しています。
――ヘルスケア事業、中でも米国で買収したZOLL社が販売しているAED(自動体外式除細動器)は米国市場では堅調です。今後の見通しは。
心停止状態の患者に対して用いられるAEDと着用型自動除細動器LifeVestは、米国でのトップシェアは揺るがないと思っています。さらに心肺呼吸器疾患に関連して2021年度に買収した2社が、次の中期経営計画で収益に貢献してくれると期待しています。AEDは日本でも売っていますが、優先市場としては米国が中心になります。
――旭化成にとって2024年はどんな年でしたか。来年はどんな年にしたいですか。
2024年は少し経営が後手に回って遅れた部分はありますが、構造改革も進んで、為替も円安でフォローの風が吹いた要因もあり、業績も成長回帰のモメンタム(勢い)が感じられるようになりました。2022〜2023年は厳しい年でしたが、2024年は2030年に向けてしっかりとした成長の足取りを確認して、実行に移し始めた年になったと思います。
2025年は新しい中期経営計画の最初の年になります。業績的には2018年度が過去最高の営業利益(2096億円)でしたが、2025年度はできればそれを抜けるような計画を進めたいと考えています。不確実性は高まりますが、変化に対応する力を磨いていきます。ワクワクしていますが、ドキドキもしています。
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