これまで多面的な事業展開をしてきた旭化成。その一方で、時代にそぐわない分野も出てきている。大胆な事業分野の見直しを断行すると同時に、企業の生命線になったカーボンニュートラルな社会実現のための事業には積極的に取り組む考えだ。
記事の前編【旭化成・小堀秀毅社長に聞く「DXを成長戦略に据える理由」 社内外にコネクトして新規分野を開拓】では同社がいかにしてDXを推進してきたかを聞いた。加えて同社は、女性活躍推進のために上司の意識を変えるなど、ダイバーシティーを大切にする経営のための人事制度改革にも乗り出している。小堀秀毅社長にインタビューした。
――マテリアルの分野では、中期経営計画で60ある事業のうち15の戦略を再構築するとあります。不採算な事業を止めて新たな分野に資源を集中するポートフォリオ見直しということでしょうか。どの事業を止めて、どの領域に力を入れるのですか。
視点としては、将来的に成長性、収益性を確保できるかを見ています。さらに重要なことはサステナビリティ(持続的成長性)との親和性です。炭素をどんどん出すような事業は、これから価値を認められなくなります。
さらにわれわれがやるべき事業かどうかも考えなければなりません。これからの時代は4社も5社も同じ分野で戦っていける状況ではありません。トップの1〜2社がマーケットをおさえていく構造なので、われわれがやり続けるべき事業なのかどうか、また、止めずとも今までと同じ戦略で続けていくべき事業なのかどうかを見極める必要があります。
――サステナビリティは確かに重要性を増していますね。
これからはカーボンニュートラル、循環型社会に向けて取り組む中長期のR&D(研究開発)が増えてくるでしょう。そこにお金と人を回そうとすると、既存事業に回す資金にも限界が出てきます。やはり投資効率を考えなければなりません。事業を維持するだけでも相応の設備投資やメンテナンス投資を必要とするので、事業をたくさん持っていると成長投資に向けての資金が出せなくなりかねないのです。
維持投資をして収益を出せれば良いですが、辛うじて利益をキープしているような事業が多いと、これからは成長投資にお金を振り向けられなくなります。このため各事業を見極めて、ポートフォリオを時代とともに変えていく必要があります。その中でも環境との親和性は重要なポイントになります。将来はカーボンプライシングなどが入ってくる可能性もあります。製造コストが低くても、炭素を多く排出しているとカーボンプライシングで大幅に価格が上がることも考えられますね。
――カーボンニュートラルへの取り組みとして、50年の目標を掲げていますが、30年時点での削減目標の達成の自信は。
われわれもカーボンニュートラルを宣言し、30年時点では13年比較でGHG排出量は30%の削減を打ち出しています。そこまでは今ある技術や工場で使うエネルギーを変えることによって、達成のめどは立ちつつあります。ただ、50年にゼロにするためには新たなイノベーションが必要になります。50年の目標達成は相当にハードルが高く、国のエネルギー政策にも左右される状況です。
――具体的にはどうやってCO2を削減するのですか。
水力発電を多く持っているので、ここ3、4年で改修して効率を高めています。また、石炭火力発電を減らして、LNG(液化天然ガス)化、バイオマス化を進めています。持っている自家発電の再生エネルギー化を図り、製造プロセスから出るCO2を見える化をして、改良改善をして抑えていくなどいくつかの取り組みをします。
――そのためにかなりコストが掛かりますか。
コストも掛かるので、成長戦略に向けて投資効率を高めていかなければなりません。そうなると「割り算」のマネジメントが重要になります。投資に対するリターン、1人当たりの売上高、利益率など、一人ひとりの生産性をどう高めるかが極めて重要です。
工場生産ではIoTを利用し見える化を進め、スループット(処理能力)を上げて、CO2を抑えていきます。効率性をより高めていくことが重要になりますので、まさにDXが重要なカギを握っています。
――福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)で世界有数のアルカリ水電解水素製造システムを導入していますが、実用化に向けての展望は。今後の水素事業にどの程度コミットする計画でしょうか。またNEDOとの実証で水素からアンモニアを製造する開発を進めているようですが、見込みのほどは。
当社は100年近く前に、再生可能エネルギーを利用したCO2フリーの水素やアンモニアを製造していた歴史があります。また、半世紀近く前から食塩水を分解して塩素とカセイソーダを作るイオン交換膜の事業に強みを持っています。これらの蓄積してきたテクノロジーを活用してアルカリ水電解による水素を製造することに特徴があります。その稼働を再生可能エネルギーによって実行することで、グリーンな水素を作ることができます。
この度、政府のグリーンイノベーション基金2兆円の一部を活用させていただき、実証プラントを作っていきます。グリーンな水素を作るのがサステナブルな脱炭素社会作りに生きるのではないでしょうか。エンジニアリング会社の日揮さまと組んで、この水素を使ってグリーンなアンモニアを作る事業にも取り組みます。
――企業ではダイバーシティー推進の動きが強まっています。旭化成の女性管理職は6月現在で257人となっていますが、女性の管理職比率はどれくらいなのでしょうか。今後の目標を実現するための課題は何でしょうか。
257人の比率は全体の4.5%で、現時点ではかなり低いです。新卒の女性採用比率は20%以上を目指して、その水準で採用はできています。一方、そういう人が管理職や高度な専門職に就くまでには時間がかかります。
管理職の一歩手前、係長クラスの比率が14%くらいまで来ているので、時間をかけて管理職の比率を上げていきたいと思います。ただ、比率だけを見ることにそれほど意味はなく、実際に活躍できる環境を整えることが必要です。やはり成長する会社はダイバーシティーに富んだ会社、日本人男性だけでなく女性も外国人も活躍できる会社ではないか、ということから、それが1つの目標になってきています。
また、少子高齢化の中での女性の活躍の場を作ることが、より良い流れになるのではないか、男性の意識も変わるのではないかという視点もあります。とはいえ、この2、3年で無理やり30%にするのは、現実的ではありません。時間をかけてしっかり女性の活躍の場を拡げる方向に取り組んでいきます。
――そのためには何が障害になりますか。
大きく言えば2つあります。上司の意識と女性の意識とがありますが、特に上司の意識が重要です。上司は「女性だから大変だし、こういう重い仕事を任せるのは……」と、自分なりに女性を思いやったとします。でも、女性から見ると「私は期待されない」と思うかもしれません。
女性にも公平に任せるという意味で、上司の意識改革が重要なポイントです。それと女性も自分のキャリアを考える意識をいっそう持ってもらうこと。この2つの意識の状況を作り上げていくことが重要です。そうはいっても出産というライフイベントに伴う制約もあるので、制度的な支援も必要です。
この上司の意識を変えるために、マネジメント力の強化などの課題が出てきています。シニアが多そうな部場とか、女性の活躍が期待できそうな部場をピックアップして具体的に施策を取り入れて、昨夏からトライアルを始めています。来春が創業100周年で、新しい中期経営計画がスタートするので、その成果をみて全社展開できるものがあればルール化していきたいと思います。
――今、社内で最も優先して進めたい改革は何でしょうか。
事業戦略を支える経営基盤を強化しなければならないポイントが、今の時代は3つあります。その頭文字を取れば、国内総生産と同じ「G・D・P」です。GはGreen、これは各製品のサプライチェーンを調べて、それぞれでサステナビリティへの貢献を考える。例えばCO2の削減に向けて見える化を行い、環境にやさしいモノづくりに取り組むことです。
DはDXを各ファンクションで進めていくこと。PはPeopleです。これからは終身雇用でなく終身成長で、時代は変わって70歳まで働くということは、一生成長していく気概を持たないとなりません。このため、人事制度を変えてキャリアパスを上司と部下で話し合って、将来に向け専門性を高めるようにしてもらいます。そういう意味で、終身成長に向けて従来と違う改革を進めなければならないと思います。
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