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電通社長に聞く「改革の現在地」 AI活用は広告業をどう変える?新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜(1/3 ページ)

» 2025年01月08日 05時00分 公開

 各社の経営トップに2025年の展望と、AI活用を通じて自社をどう伸ばしていくかを聞く「2025年 新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜」。第2回のインタビューでは、電通社長で国内の電通グループdentsu JapanのCEOも務める佐野傑氏に現状を聞いた。

2025年 新春トップインタビュー 〜AI革新企業に問う〜

富士通、NEC、旭化成、LINEヤフー、電通、日本HPの社長に独占インタビュー。今年の展望、そしてAIを活用して自社をどう伸ばしていこうとしているか具体策を聞く。

1回目:日本の研究開発が危ない 旭化成社長が「AIは武器になる」と確信したワケ

2回目:本記事

3回目:日本HP

4回目:富士通

5回目:NEC

5回目:LINEヤフー

 以前の記事【電通社長に聞く「2024年はどんな1年だった?」 “広告以外”の事業にも伸びしろ】でレポートした通り、dentsu Japanは従来の広告業だけにとらわれないビジネスを展開している。具体的にはAX(アドバタイジングトランスフォーメーション:高度化された広告コミュニケーション)、BX(ビジネストランスフォーメーション:事業全体の変革)、CX(カスタマーエクスペリエンストランスフォーメーション:顧客体験の変革)、DX(デジタルトランスフォーメーション:マーケティング基盤の変革)という4つのトランスフォーメーションを打ち出している状況だ。

Integrated Growth Partner(IGP)を実現する電通の4つの事業領域(以下、クレジットのない写真、画像は電通提供)

 一方で電通は、2015年に起きた社員の過労自死事件や、東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件を含め、組織体質の変革に迫られてきた。佐野氏に、これまでに電通で起きた問題への対策と進捗を聞くとともに、AIやDXなどビジネスモデル変革について深堀りした。

佐野傑(さの・たけし)dentsu Japan CEO 兼 電通社長執行役員。1970年神奈川県生まれ。1992年東京大学経済学部卒業後、電通入社。営業部門を中心に多岐にわたる業務を担当。2021年電通 執行役員に就任。その後、国内グループ会社の取締役およびマーケティング・プロモーション、BX(ビジネストランスフォーメーション:事業全体の変革)、DX(デジタルトランスフォーメーション:企業・マーケティング基盤の変革)領域を管掌。2022年より電通 執行役員(ビジネスプロデュース・グローバル統括)および電通ジャパンネットワーク(現dentsu Japan)執行役員として、国内営業部門・海外事業部門ならびにBX/DXコンサルティングを統括。2023年よりグローバル全体のBX CEOを兼務。2024年よりdentsu Japan CEO 兼 電通 代表取締役 社長執行役員に就任し(現任)、さらに2025年より新設された役職「デピュティ・グローバル COO」を兼任。グローバルCOOをサポートするとともに、国内外事業の連携を高度化し、グローバルで事業を展開する日系顧客企業の日本国外での事業拡大に貢献する役割を担う(撮影:河嶌太郎)

社員の過労自死、五輪談合 どう改革を進めた?

――電通では2015年の社員の過労自死や、東京五輪・パラリンピックでの問題なども報じられてきました。これらの反省を踏まえて事業と組織風土を変革するための「意識行動改革」や「労働環境改革」を進めてきたとのことですが、これらの改革について、まずお話しいただけますか。

 まず労働環境改革についてはこの10年ほど推進し、この間に労働環境は大きく変わりました。外部評価でも、東洋経済新報社の「10年間で残業が大きく減った100社」で、電通グループは1位になりました 。残業は月間で37.5時間減るなど、労働環境改革の成果は着実に顕れています。OpenWork社の「20代が選ぶ『成長環境への評価が上がった企業ランキング』」でも電通は3位になっていて、就職市場からの評価も高くなっています。働く環境や働き方に関してはもう昔の電通ではなく、良くなっていると思います。

 次に意識行動改革の話をしますと、当グループは、基本的に経営資源は「人」しかない会社です。正確にはテクノロジーがいくつもある会社なので、人が中心と言ったほうがいいかもしれません。人が資産のほぼ中心にある会社なんです。dentsu Japanには約2万3000人の従業員がいますが、一人一人が十分にその能力を発揮できなければいけません。加えて従業員は一人で仕事をするわけではないので、多様な人材が集まることで相互に掛け算を起こし、一人ではできないことを仲間とともに成し遂げられるのが、当社の強みです。

 そういう意味で言うと、ベーシックにはDEI(ダイバーシティー・エクイティ・インクルージョン)といった多様性が尊重され、働きがいや働きやすさがあり、能力が発揮できる環境やカルチャーがすごく大事です。私はこの1年間、そこに向かってさまざまな施策を推進してきました。社員一人一人が成長して能力を発揮でき、さらに掛け算が起きる。100の力が1000にも1万にもなることを目指しているので、働く環境やカルチャーはとても大事だと認識しています。

 これまでに生じた事案では、無知が起因していました。このため、知識と意識を高めるために、多くの施策に取り組んでいます。例えば、インテグリティ(誠実さ)という言葉に代表されるのですが、一人一人がインテグリティと知識を持ち、意識を高めて行動を変えていく。この意識行動改革は、私が社長になる前から1年以上かけて推進してきました。

――労働環境改革は具体的にどのように進めましたか。

 一つはきちんとメッセージを出していくことですね。あとはお互いを大事にすることを大切にしています。また、個々人がワークライフバランスを保てるように、リモートワークとのハイブリッド型を推奨しており、現在の出社率は約40〜50%となっています。

 当グループでは「リーダーシップ」についても、呼び掛けています。われわれの定義するリーダーシップとは、人に言って「ついてこい」ということではなく、人に対してポジティブな影響を与えることとしています。そのため、その人がいることによって周りの能力が発揮されていくようであれば、これもリーダーシップだと言えます。

 一人一人が能力を発揮できてこそ、われわれの競争力になるので、「利他的」であることを重んじています。仲間を大事にして仲間の能力を引き出すこと、ギブアンドテイクですね。先にテイクしてからギブするのではなく、ギブの精神を大切にしています。

 社員のエンゲージメントも重要です。社員が仲間を好きになったり、大切にしたり、尊敬したりすることはすごく大事です。エンゲージメントを高めていくための具体的な取り組み例としては、電通グループ全体を対象に「オフィスカミングデー」を初めて開催しました。これは従業員の大事な人をオフィスに招待できるイベントで、多くは子どもや親といった家族ですが、友達やパートナーなど、従業員にとって大切な方々を招きました。結果的に、満員となり、満足度も96%と非常に高いイベントとなりました。他にも創立記念日の式典を従業員コミュニケーションの場として活性化させました。

過去の問題への反省を踏まえて「意識行動改革」や「労働環境改革」を進めてきた
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