では、現代の営業で大切な「言語化」「構造化」とはどのようなものなのか。天野氏は「世の中のビジネスは、何かの『問題解決』をすることで成り立っている」と話す。
例えば、空腹を解決するために飲食店があり、旅行の計画・予約の煩わしさを解決するために旅行代理店が存在する。全ての仕事は、何かの問題を解決することで成り立っている。しかし、「解決」だけを押し付けてしまうと「押し売り」となってしまう。そこで重要なのが、顧客が何を解決してほしいのか問題を洗い出し、言語化することだ。
そもそも顧客自身、自分が抱える問題に気付いていないケースは多い。多くの人は日常生活の中で、自分が抱えている問題になかなか気付けないもの。問題を認識するのは、「理想の状態」と「今の自分の状態」との間にギャップを感じた時だという。そこで初めて顧客は「これは解決すべき課題だ」と気付くのだ。
営業のプロフェッショナルには、顧客自身も気付いていない潜在的な課題を見つけ出し、解決に導くことが求められる。顧客が気付いていなかった潜在的な課題を解決できれば、顧客がより大きな価値を得ることができる。「つまり、営業して一番得をするのは営業本人でもなく、会社でもなく『お客さま』なのだ」と天野氏は話す。
では、現代の営業は具体的にはどう顧客とコミュニケーションを取ればいいのか。この認識を踏まえた上で、天野氏は商談例を用いて説明をする。
「お客さまから『御社の商品は競合より1万円も高い』と言われたとき、多くの営業担当者は『上司に相談して頑張って価格を下げます』と言ってしまいがちだ。しかし、営業の本質を考えると、良いコミュニケーションとは言えない」
天野氏によれば、営業担当者も顧客も「現在」の視点で価格を見てしまいがちだという。しかし重要なのは「未来」の視点、つまり顧客が得られる利益だ。現在の価格は高くても、その投資で将来的に顧客が得られる利益が3倍になるのであれば、魅力的な提案となるだろう。
「お客さまから『高い』と言われても、『確かに仕入れコストは高くなりますが、売り上げ貢献度も高く、利益は確実に増えます』と、未来の利益を提示する。私たち営業が勝負するのは、現在の仕入れの金額ではなくて、お客さまが将来得る利益だ。これをしっかり証明していく必要がある」
では、顧客の利益はどうやって見つけ出せばいいのだろうか。特に法人営業では、表面的なニーズだけでなく、その裏にある「終わりのないニーズ」を見つけ出すことが重要だ。具体的には以下の6つだ。
1. 生産性の向上
2. 財務の改善
3. CSRの向上
4. コストの削減
5. リスクの回避・軽減
6. 付加価値のアップ
例えば「生産性」は、仮に今年で前年比5%向上したからといって、来年以降も今年と同じ水準で充分という企業はほとんどないだろう。このように改善し続けたい、向上し続けたいところに、“終わりのないニーズ”が眠っている。
法人営業の場合は、提示金額だけでなく「利益」の提案も必要だ。しかし、これだけでは不十分だと天野氏は指摘する。なぜなら、実際に商談する相手は「法人の中の個人」だからだ。担当者の昇進につながる、業務の手間が減る、社内の他部門から感謝される――。このような、担当者個人のメリットと感動を組み合わせた両輪の提案ができれば、より効果的だ。
「個人の場合は、“感動”が必要だ。私たちの提案に感動していただけないと契約にはつながらない。つまり、法人営業の場合は、“利益”と“感動”、両方の提案が必要なのだ」
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