さらに天野氏は、営業提案において「特長」と「利点」を明確に区別することの重要性を説く。営業提案で陥りやすい失敗は、「私たち」や「自社」を主語にして「特長」だけを話してしまうことだという。
「例えば『洗浄力が高い洗濯機です』という説明は特長でしかない。これを『共働きで子どもが小さいご家庭でも、夜に安心して洗濯乾燥ができる静かな洗濯機です』と説明すれば、お客さま視点の『利点』になる」
では、この考え方を実践するとどのような提案になるのか。天野氏は管理職研修の提案を例に挙げて説明する。
「2000万円の管理職研修を営業すると過程する。『月1回開催で期間は6カ月間。2000万円で管理職にとって大事なことが学べます』と説明しても、おそらく成約は難しい。しかし、『この研修で、御社の年間残業代10億円を4億円削減できます。つまり、2000万円の投資で3億8000万円の利益を生み出せるのです』と提案すれば、価値が明確になる」
ここまで、現代の営業の勝ちパターンを解説してきたが、負けパターンを知っておくことも大切だ。天野氏は、営業の失敗の多くが「不戦敗」、つまり戦わずして負けているケースだと指摘する。
「営業の失敗の8割が『不戦敗』だ。これは製品やサービス、コストで負けたのではなく、知らないうちにお客さまが競合製品を購入してしまうケースを指す。お客さまが必要とするものを、必要なタイミングでお届けすることが重要なのだ」
かつての営業は「顧客に買わせる」という意識に基づき、熱意と根性で押し切るスタイルが多かった。しかし、これからの営業に求められるのは、顧客が欲しがるものとタイミングを熟知し、個人のメリットを押さえつつ、投資の視点で提案できることだ。
これらが天野氏の提唱する「営業しない営業」の本質だ。では具体的に、どうすれば「営業しない営業」を実践できるのか。実現には「観察眼」「戦略眼」「情報力」の3つのエッセンスが重要となる。
1つ目のエッセンスは「観察眼」だ。まず自社の強みを見極める必要がある。
競合にはできない自社だけができること、顧客が必要としているもの――これらはバリュープロポジションという。顧客ニーズと、自社だけが提供できる価値が何かを見極めることから始めよう。
多くの人は「うちの商品は他社と同じ」と考えてしまいがちだが、天野氏は「何とかひねり出していく」ことが重要だと強調する。
2つ目は「戦略眼」だ。これは、顧客の目標達成に向けた道筋を立てる視点を指す。顧客が目指すゴール、つまり利益や成功を理解し、そこから逆算して戦略を立てることが非常に重要となる。
そして3つ目の「情報力」について、天野氏は特に詳しく解説した。
「情報力を構築するために、私は『組織情報』『担当情報』『案件情報』『工程情報』の4つのリストの作成を推奨している。特に案件情報ではお客さまの予算を、工程情報では各チームや組織、部門による商品・サービスの制作プロセスを理解することが重要だ」
この情報力を高めるもっとも効果的な方法として「ファン」の存在がある。ファンとは、契約や決済に関係なく情報を提供してくれる人を指す。どうすればファンを増やせるのか。天野氏は以下のポイントを挙げる。
1. より多くの顧客と会い、気の合う相手を見つける
2. 共通の趣味や関心を持つ人を紹介してもらう
3. 視覚を重視したコミュニケーションを行う
4. 顧客に寄り添う「二人三脚スタイル」を実践
5. SNS、ウェビナー、YouTubeなど、多様なチャネルでの情報発信
6. SaaSツールを活用した顧客情報の整理と適切なアプローチの実施
「DX時代の今だからこそ、お客さまとの関係性が希薄になりがちだ。だからこそ、『営業しない営業』を通じて、お客さまとの関係づくりを楽しんでほしい」と天野氏は締めくくった。
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