NECが2024年5月から推進するDXブランドの価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)。営業だけでなく、顧客へのオファリングなど課題解決に重点をおいた取り組みだ。その推進には生成AIをはじめとする先端技術を積極的に活用している。
NECの研究開発の投資額は、毎年1000億円を超えている状況だ。売上高に対する比率が4%前後で推移している。
BluStellarと先端技術開発の2つを組み合わせることによって、NECは最新技術を顧客の課題解決に生かしている。加えて顧客からの課題によって、NECの技術開発の方向性を見定める狙いもあるという。
NECは先端技術の研究開発投資をいかにして進めているのか。判断を決定付ける要因は? 前編と中編に引き続き、西原基夫CTOに聞いた。
西原基夫(にしはら・もとお) 1985年東京大学工学部卒、同年NECに入社。ネットワーク製品、セキュリティ製品、インターネットシステム等の製品開発、研究に従事。カーネギーメロン大・計算機工学MS。2011年7月 システムプラットフォーム研究所長、2012年4月クラウドシステム研究所長、2016年に執行役員。2019年4月に執行役員常務 兼 CTO、2019年6月に取締役 執行役員常務 兼 CTO。2023年4に取締役 Corporate EVP 兼 CTO、2023年6月に執行役 Corporate EVP 兼 CTO――AIや生体認証といった技術が、BluStellarをどのようにけん引していくと思いますか。
顧客の経営アジェンダの解決に向けて、コンサルをし、テクノロジーを実装してオファリングし、保守・運用もする。この全体のプロセスがBluStellarに含まれています。
この中でテクノロジーがどう使われるかも課題となってきますが、今後はテクノロジーが基盤となり、世の中が大きく変わっていく時代になります。こうした時代の中で、顧客へのコンサルの仕方や、顧客業務のDXを良いほうに、つまり価値が出せるほうに変化させていく必要があります。
そう考えた時に、2027年にテクノロジーがどこまで進化するのか、2030年ではどこまでいくのかを見越した上で投資をしなければなりません。今ある技術がこうだから、そのまま研究開発を進めたところ、2027年に別の方向にいってしまったのでは、もう間に合わないわけです。ですから、先を見越して活動する必要があります。
特にAIエージェントのような技術が進んでいくと、ある業種では仕事の仕方自体も一緒に進化させていく形になります。これはその業種のことを一番よく分かっている顧客とパートナーリングをしないと作れません。ここにBluStellarという価値創造モデルを創設した狙いもあります。
顧客にはテクノロジーの伸びしろは分からないし、われわれも顧客の業務の全てを理解しているわけではありません。NECは顧客と伴走することによって、これからの時代に必要なテクノロジーの行き先を見定められると考えています。NECの技術が、BluStellarの支えとなるわけです。
BluStellarは「青い星」という意味で、航海士が道しるべとなる星を示すという意味があります。顧客と一緒にコンサルをして、オファリングをして、デリバリーをしてビジネスサイクルを回すところまでいく。この伴走によって、正しいテクノロジーの投資判断をすることにもつながるわけです。
――テクノロジーが起点となって伴走していくわけですね。
そうですね。ですから、テクノロジーを今の時点で持っているかどうかが必ずしも重要ではありません。それよりも、テクノロジーの価値を知っているかどうかのほうが重要なのです。これは当社が持っているテクノロジーだけである必要はなく、良いテクノロジーがあればどんどん外から取り入れるべきですし、パートナーリングもしています。
テクノロジーベンダーとして、その価値を分かっていることが重要だと思います。もちろんその中で、NECしか持っていいないテクノロジーも、競合優位性の要素として用意はすべきです。
――NECは生体認証や画像認識の技術で世界一です。この強みは今後、事業としてどう生かしていきますか。
生体認証系は、本人確認をするところが基本的な価値になります。そこを起点として決済にもなるし、セキュリティのゲートチェックにもなります。これにはいろいろなニーズがあるので、世界中にNECの技術を実装しています。
しかし、この生体認証システム単体だと、価値訴求に限界があります。ですから、これに加えて、例えば認証した人の行動や環境情報とを組み合わせて、より新しいオファリングを探っていく取り組みが必要です。特にここはAI技術によって予測精度が高まっていますから、AIと組み合わせることも可能だと思います。
画像認識技術は、生成AIを活用した業務改革の中でも、非常に重要な役割を果たしています。現場での実装を考えると、人間が情報を得て仕事をするプロセスに似ています。人間が目で見て状況を判断し、耳で音を聞き、匂いを感じるように、画像認識技術は視覚的な情報を捉えて処理する能力が非常に高いのです。この技術を活用することによって、例えば顔認証やパブリックセーフティの分野で大きな成果を上げています。
具体的には、特定エリアでの異常事象の検知や、自動運転車の高度な予測や制御にも応用しています。さらに画像認識は顔だけでなく、血圧や血中酸素濃度などの把握にも活用できます。例えばiPadの前に立つだけで、脈拍や血圧が数秒で測定できる技術を当社は発表しています。
NECが得意とする信号処理技術とも連携することによって、画像認識はさらに多彩な用途に広がっていきます。例えば光ファイバーを使ったセンシング技術では、100キロにわたる道路の振動や車両の動きをリアルタイムでモニタリングできます。これにより渋滞や事故の発生状況を把握し、迅速な対応ができる仕組みを構築しています。
これらの技術は単独で使用するだけではなく、生成AIと組み合わせることによって、新たな価値を生み出しています。生成AIは人間の頭脳を模倣したもので、画像認識や信号処理などから得られる膨大な情報を統合し、人間の五感以上の感覚を持つシステムとして活用できます。このようなシステムは業務効率化だけでなく、新しいアプリケーションやサービスの創出にもつながります。
さらに、人間との柔軟な対話が可能となり、多様な要求に応じられるAIエージェントが実現します。このような取り組みにより、GAFAなど他社にはない独自の価値を、NECが提供し続けられると考えています。
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