1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
「金利のある世界」が定着しつつある。日本の長期金利が1.5%に達したことで、変動金利を中心とした住宅ローンは、家計にとって大きな負担になりそうだ。
物件価格が高騰している影響で、50年ローンといった超長期の住宅ローンも注目を浴びるようになった。金利がたった1%違うだけで、総返済額が数千万円単位で増える──そんなケースも想定される。
不動産鑑定評価の東京カンテイ(東京都品川区)の調査によれば、首都圏の中古マンション平均価格は2024年、実に11年ぶりに下落へ転じたことが明らかとなった。
価格が下落するということは、買い需要よりも売り需要が大きくなりつつあるサインともいえる。マイホーム購入を検討していた世帯には黄信号が灯っているのだろうか。
今、住宅ローン金利の上昇局面で何が起き、どのようなリスクが潜んでいるのか。その背景と影響を整理するとともに、企業の視点からどのような対策が考えられるかを探ってみたい。
金利上昇の最大の要因としては、日銀が金融緩和政策を見直したことが挙げられる。
背景には、コロナ禍をきっかけとした世界的な利上げ局面がある。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレの鎮静化を最優先に2022年から2023年にかけて複数回の利上げを実施し、結果として世界の長期金利が上昇する潮流が生まれた。
筆者自身も2022年9月、本連載の記事「住宅ローン契約者の3人に1人が破綻する? 統計が浮き彫りにした金利上昇の大きなリスク」において、変動金利で住宅ローンをフルに借り入れる世帯割合の増加について警鐘を鳴らした。
その後、日本国内でも輸入コスト高や賃金上昇を背景とするインフレ圧力が強まり、国債利回りはじわじわと上昇している。こうした環境下では、住宅ローンで家計が破綻してしまうリスクがさらに高まっているといえよう。
ただし、東京23区内の一等地や人気エリアの高額マンションなどは海外投資マネーや富裕層の需要に支えられ、相対的に下支えされている。
先述した東京カンテイの調査を「都心部」に絞って確認すると、依然として年率換算で5%近い伸びを示しており、平均坪単価はいまだに上昇基調を続けている。
都心部においては、麻布台ヒルズのように10億〜100億円単位の部屋が売買される例も出てきている。これにより、平均価格が“上方”に引っ張られ、表面上はまだ「高止まり」の印象を与えている面もある。
結果として、不動産市況はエリアや価格帯による二極化がより一層鮮明になりつつあるといえそうだ。
住宅ローン金利の上昇は個人消費を冷やす要因となり、住宅投資の減速にもつながる。住宅着工件数の減少は建材、家電、内装といった関連産業へ波及し、景気全体を下振れさせるリスクを高める。
企業にとっては、社宅や社員向けローン制度を運営している場合の負担が増す。また、不動産開発や設備投資も慎重姿勢が強まるだろう。
もっとも、金融政策の正常化は銀行の収益構造を健全化し、金利差からの安定的な利ざや(預金金利と貸出金利の差)を生み出す可能性もある。また、利上げによって日本円の利回りが上昇すれば、これまでの円安基調が是正される可能性もある。これは、輸入コストを抑制できるという点で輸入を軸とする企業には有利に働く。
ただし、生活者と企業双方が負う負担増との板挟み構造は、当面の間は解消されにくいと見られる。日銀の金融政策転換のタイミングとスピードに、一層注視が必要なフェーズが続くであろう。
日本の長期金利が1.5%に到達し、超低金利時代が終わりに近づきつつある今、住宅ローンの負担増はあくまで象徴的な一つの現象に過ぎない。
企業におけるローン戦略は、中長期的な資金調達計画と財務バランスの安定を図る上で、極めて重要である。まずは金利上昇リスクを念頭に、借入期間や返済方法を定期的に見直し、キャッシュフローへの影響を最小限に抑えたい。
加えて、固定金利や変動金利を組み合わせたミックス型を活用し、金利変動に対するリスクヘッジを行うことも有効だ。銀行借入だけでなく、社債発行や増資といった多様な調達手段を検討することで、金利依存リスクを分散できるだろう。
また、国や自治体が実施する補助金や低利融資制度にも注目したい。利上げは住宅ローンに限らず、有利子負債を抱える企業としても負担増は避けられない問題だ。金融機関の動向や政府・自治体の支援策を的確に把握した上で、柔軟な資金計画を組む必要がある。
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