「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
目覚ましのアラーム音を止めようと、ベッドに寝転んだままスマホに手を伸ばす。キッチンからは電子レンジが鳴り、テレビのニュースを読む声はバタバタと動く家族の足音にかき消される。慌ただしい朝の気配を感じながら、体を起こす――私たちの日常は、こんなにも音に包まれています。
音が状況を表し日常を彩るのはもちろん、実はビジネスにおいても非常に重要な役割を担っています。
BMWやメルセデス・ベンツなどの最新の高級車は、電気自動車であってもエンジンをかけると、車載スピーカーから重厚なエンジン音が出ます。エンジン音がしないと、車が動き出す実感が湧きにくかったり、「この音がするからこそ、運転が楽しい」と感じたりするドライバーも多いのだとか。こうした体験を大切にするため、メーカーはエンジン音を“演出”しています。
音がユーザー体験(UX)に与える影響は、想像以上に大きいと言われます。上記で紹介したように、音は企業のマーケティング活動と密接に結びついています。LINEやNintendow Switch、スマホの操作音の特徴を例に、日常に溢(あふ)れる音に”目”を向けてその可能性を探っていきましょう。
私たちの脳は、視覚よりも先に聴覚で情報を処理すると言われています。大きな物音がすると反射的に体がこわばったり、好きな音楽を聴くと気分が高揚したりするのは、音が感情に直接働きかけるからです。
目の前で衝撃的な事故が起きたとしても、視覚情報を処理し、状況を理解するのにはわずかなタイムラグが生じます。脳は「何が起きたのか?」を分析しようとするため、一瞬フリーズしてしまうこともあります。これに対し、大きな衝突音や爆発音を耳にした場合、脳は即座に危険を察知し、反射的に身をすくめたり、心拍数を上げたりするのです。
音の情報は、耳から入り、大脳皮質に到達する前に扁桃体(感情を司る部分)を経由します。そのため、音は理性ではなく、感情にダイレクトに影響を与えるのです。例えば、エンジン音の低音は力強さや安心感を、電車の発車ベルは「急がなきゃ」という焦りを生み出します。心地よい音を聞いたときには快楽を感じる神経伝達物質が出て、不快なノイズはストレスホルモンのコルチゾールを増やし、無意識のうちに疲労感やイライラを引き起こします。
この特性は、UXデザインにおいても重要です。例えば、車が走行中に他の車に接近したり障害物に衝突しそうになったりする時に発せられる衝突警告音は、視覚的なアラートよりも素早く危機を伝えられます。人間の本能的な反応を理解することで、より直感的な音のデザインが可能になるのです。
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