「しつこく名前を連呼」「怒鳴られた」──これってカスハラ? 東京都「防止条例」で何が変わる?4月1日施行(1/3 ページ)

» 2025年04月01日 06時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]

佐藤みのり 弁護士

慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。


 4月1日から、東京都が「カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下、カスハラ防止条例)を施行します。本条例では、あらゆる場面でのカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)を禁じており、カスハラの定義を詳しく解説しています。

 カスハラの取り締まりが厳しくなる一方で、どこからがカスハラかを見極めることに苦労している企業も多く存在します。今回の記事では4月1日のカスハラ防止条例の具体的な内容を解説。また、具体的な事例をベースにカスハラの見極め方や今後どう取り締まられていくのかを紹介します。

カスハラの範囲は「どこから、どこまで」か

 2022年2月に公表された厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」としています。

 また、この4月に施行される東京都のカスハラ防止条例では、カスハラを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義づけています。

 これらをみても明らかなように、顧客や取引先からのクレーム全てがカスハラに当たるわけではありません。

 企業側が問題のある商品やサービスを提供した場合、消費者は企業の過失を訴えたり、責任を追及したりする必要があります。本来、そうした主張は正当なもので、ハラスメントではありません。一方、内容自体は正当な主張であっても、その伝え方や態度に問題があり、従業員を追い込むケースがあります。また、そもそも、顧客側のクレーム内容に妥当性がなく、不当な言いがかりであるケースもあるでしょう。こうした場合に、初めてカスハラになり得ます。

 例えば、接客対応の遅れに対し、急いでほしいと冷静に希望を伝えたり、どのくらい時間がかかるか数回尋ねたりしたとしても、カスハラとまではいえないでしょう。一方、「いつまでかかっている。いい加減にしろ」などと暴言を吐いたり、数時間文句を言い続けたりすればカスハラに当たる可能性が高いです。

「ベルク」の名札廃止、「タリーズ」の注意喚起……カスハラに該当するか

 実際に最近話題になったニュースを取り上げ、考えてみましょう。

 スーパーマーケットの「ベルク」が、従業員のプライバシーを保護するため名札に氏名を記載しなくなった──というニュースが話題になりました。過去には従業員の名札を見て名字を連呼したり、接客ぶりについて「SNSに書こうか?」と脅してきたりした顧客がいたといいます。この事例はカスハラに当たるでしょうか?

 こちらはカスハラに当たる可能性があります。

 2024年12月、東京都が示した「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」は、カスハラの代表的な行為類型として、「就業者個人への攻撃や嫌がらせ」を挙げています。従業員個人の氏名に注目し、個人を侮辱したり、その名誉を毀損(きそん)したりすることをにおわせながら脅す行為は社会通念上相当とはいえず、就業環境を害するものでもあり、カスハラに当たる可能性が高いでしょう。

参考:「男性客が名字を連呼」「SNSに書こうか?」スーパー店員の名札、名字やめました 首都圏チェーンの取り組みに「他社も続いて」(まいどなニュース)

 また、コーヒーチェーン大手「タリーズコーヒー」の青森空港店(青森市)では、出発便に間に合わないと怒鳴る客がいたとして、店に注意喚起のポップを掲示した件が話題を集めました。

 この事案もカスハラに当たる可能性が高いでしょう。大声で怒鳴りつける行為は、就業者への精神的な攻撃と考えられます。就業者に無理難題をふっかけ、怒鳴りつけたのだとすると社会通念上相当とはいえず、就業環境が害されたと評価できるように思います。

参考:「時間がないから早くしろ!」空港でのカスハラ深刻 タリーズ店舗が看板で注意喚起、本部も「方向性間違っていない」(J-CASTニュース)

 過去には、カスハラで企業が個人を訴え、裁判になった事例もあります。

 顧客が保険会社の従業員の対応を不満として、保険会社側に弁護士がついた後も弁護士への連絡を拒否。直接会社に多数回、長時間にわたり電話をし続けたケースで、会社が業務妨害禁止を求め顧客を訴えました。この事案で裁判所は妨害行為の差し止め請求を認めました。

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