これまでもカスハラ行為の態様によっては、脅迫罪や名誉毀損罪などの犯罪として取り締まりの対象になっており、また、カスハラにより企業側に損害を与えれば、民事上も不法行為として損害賠償責任を問われる可能性がありました。しかし、カスハラのみに焦点を当てた法律は今のところありません。
厚生労働省は、事業者にカスハラ対策を義務付ける方針を示しており、近く法律による義務付けがなされることが予想されます。それに先立ち、東京都のカスハラ防止条例では、事業者などに対してカスハラ防止の義務を課しています。また、事業者だけでなく、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」とカスハラを禁止するとともに、都・顧客等・就業者・事業者それぞれの責務を定めているのが特徴です。
条例では、違反した場合の罰則規定は設けられていませんが、企業はカスハラ防止措置として、必要な体制整備、カスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引きの作成などを行うよう努力しなければなりません。先述した2022年2月に公表された厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に基づき、すでに対策を講じてきた企業は、引き続き同様の対策を講じることで足りると思われますが、まだ対策を講じていない企業は、条例の施行を機に、カスハラを受けた場合にどのような行動をとるべきかマニュアルなどを整備し、従業員に対して研修を行うなど、対策を講じる必要があります。
実際のカスハラ被害でよくある事例を取り上げ、東京都のカスハラ防止条例ではカスハラに該当しうるのかを考えてみましょう。
A: 声の大きさ、言い方、回数などによっては、社会通念上相当ではないと評価され、カスハラと認められる可能性があります。
企業としては、感情的な客が現れた場合、すぐに応援を呼べる体制を整え、客の言動に傷つくことがあったらすぐに相談するよう、日頃から従業員に伝えておいたりすることが大切です。
その他、「人格否定」や「話しながら物を叩く行為」などはカスハラに当たります。
A: 従業員への執拗な言動やつきまといなどは、カスハラの代表的な類型と考えられており、執拗さの程度などによってはカスハラに当たる可能性があります。
A: 執拗な要求や継続的な攻撃は、カスハラの代表的な類型と考えられ、カスハラに当たると考えられます。
A: 「面白いことして」など、抽象的行為を要求することは、カスハラに当たる可能性が高いでしょう。
一定の価格交渉は社会通念上相当なものとして、カスハラには当たらないと考えられます。しかし、店員が応じられないと明示しているにもかかわらず、執拗に価格交渉を続け、長時間の客対応を強いられるようなケースではカスハラと認められる可能性があります。
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