キユーピーが、海外展開を加速させる。2月28日に東京・六本木で開いたキユーピー マヨネーズ100周年の記念イベントで、高宮満社長(高は、はしごだか)は「これまでの100年はモノづくりの心を大事にしてきた。今後はマヨネーズの活躍の場を日本からグローバルに広げていきたい」と意気込みを見せた。
2024年11月時点で、79の国と地域にキユーピー マヨネーズを届けていて、11カ国に販売拠点を持つ。高宮社長は「生産拠点も7カ国に広げていて、この生産販売の動きを加速化させたい」と述べ、海外展開を積極的に進める方針を表明。その理由として「世界的な日本食ブームとインバウンドの増加」を挙げた。
その上で「キユーピー マヨネーズは日本の料理だけでなく、各国のさまざまな料理との相性が良く、名脇役として認められてきている」と話す。
高宮社長に今後の展望をインタビューした。
高宮満(たかみや・みつる)1987年に東京水産大学(現、東京海洋大学)院修了後、同年にキユーピーに入社。2012年に研究開発本部長、15年にマーケティング本部長などを経て、19年に上席執行役員、22年2月から社長。東京都出身。63歳キユーピー マヨネーズ発売100周年に合わせ、同社が掲げたスローガンは「still in progress. 」(いまも進歩の途上)。これまでもキユーピー マヨネーズを始めとした製品の改良を続けてきた。これからの100年に向けての課題として高宮社長は(1)日本だけでなく世界の食卓に必要な調味料として、食と健康に貢献する、(2)さまざまな社会課題に取り組んでいく――の2点を挙げた。
「卵黄タイプのキユーピー マヨネーズは、世界の調味料とベストマッチが可能になった。世界でも親しみやすい調味料を目指すため、この春から世界統一ブランディングを実施する」と話す。そのブランディングのメッセージは「KEWPIE IT.」に決めた。キユーピー マヨネーズをかけることで出会える新しい食体験を表現したものだ。この統一ブランディングの下で、アジアや欧米市場に積極的にマヨネーズを中心に売り込んでいきたい方針だ。
メッセージの使い方については、ネットを中心としたデジタル動画広告などで使っていく計画で、14カ国で順次流していくという。
(2)の社会課題への取り組みについては、子どもの居場所づくり活動をしている団体への助成、学校菜園や学校給食など子どもの笑顔づくりにかかわる活動も継続して支援していく考えを示した。
キユーピー マヨネーズを安定的に生産販売するために、より良い原材料の調達に努めてきた。高宮社長は「地球温暖化の影響もあって植物油など原料の確保が難しくなってきている。卵についても鳥インフルエンザの拡大により厳しい情勢になってきており、今後は知恵を出しながら安定的な調達を目指していきたい」と話す。
鶏卵については、鳥インフルが広がり始めた2023年ごろから調達ルートの分散化に取り組んでいる。鶏卵加工商品のうち冷凍品の在庫を増やすなどして、供給を維持できる体制も整えているという。
キユーピーの海外生産について高宮社長は「現在7カ国で生産しているが、それぞれの国で需要が伸びて、マヨネーズを作り切れない状態になっています。このため、今年はタイ、インドネシア、米国の3カ所で一斉に新しい工場を稼働させる」と話す。生産体制を拡充する構えだ。
市販用市場を統括する濱崎伸也常務によれば「現在、キユーピーグループでは海外の売り上げは2割ほど。マヨネーズだけでみると国内が600億円、海外が500億円と年々海外が増えてきている。2030年代の半ばには国内と海外の割合が半々になってくるのではないかと予想している」という。
マヨネーズはカロリーが高いため、糖尿病などカロリーが気になる人にとっては多くを摂取できない。このため、キユーピーではカロリーを従来の半分にしたマヨネーズの「ハーフ」を販売してきた。2011年には、カロリーを75%カットした「ライト」を発売。2017年には80%カットした「ライト」も売り出している。使用する植物油の粒をこれまでの半分に細かくし、少ない量でもコクを感じやすくするなど改良を加えたという。
高宮社長は「それぞれの消費者に対応したものを出している」と話す。引き続き製品開発に磨きをかける決意を示した。
国内で進む人手不足については「ITやテクノロジーの活用は絶対に必要だ」と話す。「人がやる仕事と、ITやロボットに任せる仕事を使い分けられるようになると、(仕事の内容が)大幅に変わる可能性がある。まだまだこれからだが、積極的に進めていきたい」
経営信条については「人は誉められて伸びる。私が研究所にいたころに、当時の社長に『これいいね』と本気で開発していた商品を誉めてもらい、それ以来、仕事にやる気が出た経験がある。なので、社員に対しては、常に誉めるように心掛けている」と述べた。マネジメントについては「失敗を恐れずに挑戦して、具体的に動くこと」をモットーにしているという。
マヨネーズの主な原料は、卵、植物性油、酢で、シンプルな成分から作られている。その中で高宮社長は「モノづくりの心を忘れずに」、新しい分野にも挑戦しようとしている。確かにマヨネーズを使うメニューは、単にサラダだけでなく、お好み焼きや大ヒットとなったコンビニおにぎりへの利用など、多様化が急速に進んでいる。今後は若い層をいかに取り込んでいくかが重要だ。
キユーピーはマヨネーズの国内シェアで約50%を占めている。同社が今後も発展するためには、海外市場の開拓がカギだ。海外展開となると、その国独自の食文化があり嗜好も国によって異なる。新しいブランディングによって、さまざまな食の風味がある海外の顧客を獲得できるかどうか。卵黄を生かしたキユーピー マヨネーズの味を、それぞれの国といかに調整できるかが今後のポイントとなってくる。
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