この記事ではCXデザインを実践し、CX向上につなげた事例を3つ紹介します。
大手エネルギー企業である東京ガスでは、ガスの開閉栓受付を自動化しました。このような生活インフラの開通は引っ越し繁忙期に集中することに加え、契約者名(漢字)や建物名の正確な聴取が求められます。そこで、電話(ボイスボット)で問い合わせを受けてから、ショートメッセージに移行し、チャットボットの質問に答える形で住所氏名などをテキスト入力してもらう──という顧客体験の流れをデザイン。住所の入力は、ユーザーが入力や選択に迷わないよう、細かく分けて提示するようなステップを追加して設計しました。
この事例では、引越し繁忙期のAI対応完了率は最大96%を達成。音声案内の終了タイミングの選択を可能にする仕様で、通話時間短縮や通話料の軽減を実現しました。想定よりも多くの顧客がAIだけで受け付けを完結できるようになり、オペレーターの負荷軽減にも効果がありました。
2つ目の事例は、MS&ADインシュアランス グループが、ロードサービス受付でボイスボットとチャットボット、GPSやカメラ機能を併用した事例。ロードサービス受付ではバッテリー上がりの受け付け対応の比重が大きく、緊急性が高く迅速な対応が求められます。一度の受け付けで氏名や場所、ナンバープレートなど多くの情報を正確に聞き出す必要があり、同社らはユーザーに分かりやすく操作しやすいシステム作りを目指していました。
人が聞き取るのに苦労するのが、位置情報です。自宅や勤め先なら住所を正確に言えますが、自動車保険のロードサービスなどは非常に難しいそうです。地名を聞き取ったものの、別の場所にも同じ町名があって対応する車両が全然違う場所に行ってしまうことも。知らない道路を走行中にトラブルにあった場合、「停止している住所を教えてください」と言われてもすぐに分かる方は実際少ないと思います。
位置情報を簡単かつ確実に取得するためには、スマホのGPS情報を使います。また、GPSの精度ではどちら側に止まっているかまでは分かりませんが、カメラ機能で周囲の写真も一緒に送ることで、より正確な位置を把握できます。
バッテリー上がりの受け付けでは、氏名や連絡先などの基本情報に加えて、車のナンバープレートや位置情報を入力する必要があります。4桁の数字は覚えていても、例えば「品川XX-○」の部分はうろ覚えの方もいます。車検証を見れば入力できますが、車の外に出るならナンバープレートをスマホのカメラで撮影して入力すると、手間が省けて便利です。
これらの取り組みの結果、バッテリー上がり手配のうち約13%を自動受け付けし、オペレーター約10人相当の業務効率化で、応答率向上を実現しました。
3つ目の事例は、大手空調機メーカーであるダイキンでのエアコン修理受付やトラブル対応の自動化に関する事例です。
デジタルツールの方が聞き取りが便利な情報として、「日付」があります。音声やテキスト入力よりも、カレンダーから選択する方が手間がかかりません。
また、故障部分や状態の確認を行う必要があり、音声だけのやりとりでは、ユーザーが情報・状態を正確に伝えることに苦労していたことも課題でした。
言葉での説明が難しいものや、ユーザー側で該当する選択肢が思い付かないような場合は、テキストチャット内でボタン形式で回答を誘導したり、AIの1回の発話につき1つの情報だけ聴取したり、「〇〇のようにお話ください」のような発話例を入れるなど、使いやすい設計を意識してデザインしましょう。
同社では、AI対応完了率96%を達成しています。
ITやAIというと機能や性能など技術面が注目されますが、顧客対応では初めての人にも分かりやすい案内を実現するデザインの方が大事です。いくらツールとして優れていても、CXデザインという概念がないと、分かりやすい自動応答システムは作れません。
コンタクトセンターに電話をかけてくる顧客は、相手がAIだろうが人だろうが、分かりやすく簡単に解決することを望んでいます。AI自体の性能や機能はベースとして必要ではありますが、それをどう料理するか(顧客からどう見えるか、どう聞こえるか、どう動くか)というCXデザインは非常に重要です。
“CXデザイン”はAIコミュニケーションツール活用の成功の鍵となります。今後、ボイスボットなどのツールを導入する際は、ぜひ、CXデザインの重要性に注目してみてください。
この記事を読んだ方に 住信SBIネット銀行の大改革
住信SBIネット銀行のカスタマーセンターでは、フルクラウド型コンタクトセンターや生成AIによる自動応答などをいち早く取り入れることで急成長する事業を支えてきた。その成果と、生成AI時代のカスタマーサポートのあるべき姿とは?
株式会社トゥモロー・ネット 取締役 CPO
官公庁、地方自治体のコールセンターを経て、コンタクトセンターアーキテクチャとして、15年以上にわたりコールセンター構築業務に携わる。ヤマトコンタクトサービスでは、コンタクトセンターシニアアナリストとして、ヤマトグループや顧客企業のVOC(ボイス・オブ・カスタマー)をはじめとしたデータドリブン領域とAIを活用したCXデザイン、チャネルデザインの構築に携わり、「CX向上」とコンタクトセンターの「経営貢献」のモデリング創出をリード。現職では、ボイスボットとチャットボットが同時利用可能な「CXマルチモードAI」を開発し、同機能を搭載したAIソリューション「CAT.AI(キャットエーアイ)」のプロダクト開発責任者としてAIプラットフォーム事業を牽引している。
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