株式会社トゥモロー・ネット 取締役 CPO
AIの普及でコンタクトセンターの在り方が大きく変化しました。ユーザーにいかに「エフォートレス(Effortless、苦労のない)な体験」を提供できるかが、CX(顧客体験)のキーワードになってきています。
そんな中、顧客の心理・行動・期待を深く理解したCXをデザインすることが重要性を増しています。CXデザインの理想形は、「顧客がエフォートレスに問題を解決できる体験を届けること」です。究極は、直感的な数回のタップで問題が解決することだと考えています。
音声認識だけで解決が難しければ、他の機能を簡単に連携できるのがデジタルツールのいいところです。連載第2回の本記事では、東京ガス、MS&ADインシュアランス グループ、ダイキンの事例を取り上げ、CXデザイン思考でコミュニケーションを高度化する方法を紹介します。
コンタクトセンターでのAI活用が昨今トレンド化していますが、せっかくAIを導入しても顧客体験が改善しなかった──という失敗談をよく耳にします。
コンタクトセンター業務のプロフェッショナルたちは、相手を満足させる会話をすることが当たり前になりすぎて、ベンダーにわざわざ伝えることでもないと思ってしまいがちです。しかし、AI開発エンジニアは自社のツールの性能や機能についてなど、全く別の角度から話をするので、その考え方に慣れていないと適切なシステム設計の選択につながりません。まずは、自社のやりたいことを顧客起点でしっかりイメージし、カスタマージャーニーや対話シナリオとして考えておきましょう。
そのうえで「CX向上にフォーカスした事例はありますか」と確認することが重要です。CXを重視する場合、最初から「人手不足なので、AIで代替したい」「どのようなことができるのですか」と聞いてしまうのは得策ではありません。
ポイントは、「そのツールで何ができるのか」ではなく、「自社の顧客はどのようなコミュニケーションを求めているのか」から考えることです。ちなみにサービス開発の世界では「プロダクトアウト」ではなく「ユーザーセントリック」という言い方をします。また、シリコンバレーベンチャーの発想法で「デザイン思考」と呼ぶものがありますが、「ユーザーが抱えるニーズを起点に、革新的な製品やサービスを生み出す」という意味なので、これにも通じます。
当然、全ての顧客がAIに馴染めるとは限らないので、人による応対を全廃するわけにいかない業界もあるでしょう。ボイスボットで途中まで聞き取りをしたが、途中でオペレーターに引き継ぐケースも考えられます。
その場合も、「さっきAIに言ったのに……」と思われないために、ボイスボットで聞き取った続きからオペレーターが引き継げるようにするのが、CXデザインとしては理想です。これは、API連携で実装するなど技術的ハードルは高くないことが多いので、難しそうだと尻込みする必要はありません。
CXの理想は「ユーザーが迷うことなく、数回タップするだけで要望が完結する」ことなので、最終的にはそこを目指しましょう。ただ、そうはいかないケースも、もちろんあります。また、人ならできることが、AIには適性がないこともあります。
分かりやすいのは日本語の同音異義の漢字表記です。人が対応していれば「モリの字は、森林の森ですか、盛りそばの盛ですか」などと聞けますが、AIで同じことを実装するとなるとかなりの学習や工数がかかります。日本人の名字だけでも30万種あると言われており、そこに名前やキラキラネームなど入ると、現状ではメンテナンス含め、コストが全く見合わなくなります。
最も困難なのは上記のように人名の漢字。私が「シブヤタケシ」と言って「澁谷毅」と入力されることは、まずありません。
そのような「AIには適性がないこと」に対して、いい代替案を持っているかどうかも重要です。この時、ツールの機能としてあるかどうかだけでなく、適切な提案ができるCXデザイナーがベンダー側にいるかどうかが、ボイスボット導入で効果が出せるかどうかに深く関わってきます。
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