ほぼアウェーのような状況の中で、阿部さんはどのようにして説得したのだろうか。その答えを紹介する前に、焙煎機が完成するまでのエピソードを紹介しよう。
そもそも、コーヒー焙煎機をどのようにしてつくればいいのか。素人の阿部さんはよく分からなかったので、書籍を読んだり、専門家に相談したり、展示会に参加したりして情報を集めた。そうした中で出会ったのが、富士珈機(ふじこうき、大阪市)という会社である。
富士珈機は「フジローヤル」というブランド名で、焙煎機などを展開するメーカーだ。焙煎機の特徴は、本体構造が「二重シリンダー」であること。焼きムラや焦げつきが少なく、喫茶店のオーナーやコーヒー豆を販売している専門店などで使われている。
いわばプロ向けの商品なので、サイズは大きい。最も軽いモノで25キロほど。イワタニは家庭での使用を想定しているので、小さなサイズをつくれないかと考えていた。「弊社はコーヒー焙煎機を開発したことがありません。専門の富士珈機さんに設計をお願いすれば、消費者から信頼されるのではないかと考えました」(阿部さん)
先方に打診したところ、話はとんとん拍子に。半年後に試作機ができあがったわけだが、最も苦労したことは何か。それは、焼きムラや焦げつきを抑えることである。
直火で焙煎すると、どうしても焼きムラができやすい。そこで導入したのが、フジローヤルのオハコともいえる「二重シリンダー」。内筒と外筒が二重構造になっているので、カセットコンロの火が直接豆にあたらない。熱の伝わり方のバランスがとりやすく、ムラのない焙煎ができる仕組みだ。
もちろん、二重シリンダーを導入したことで、すべての問題が解決したわけではない。均一に火が通るように、素材の選定、回転速度、熱伝導のバランスなど、細かな調整を何度も何度も繰り返したという。
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