この記事は、『仕事を減らせ。 限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』(小田島春樹著、かんき出版)に掲載された内容に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
徹底的な「デジタル化」と「データ分析」により、現場の省力化と効率化を達成した伊勢の食堂「ゑびや」。代表の小田島春樹氏は、その恩恵を事業に注ぐだけではなく、事業変革を一緒に担ったメンバーにも還元する。柔軟な休暇制度や子育て中の女性の登用など、既存の概念にとらわれない「働き方改革」について、『仕事を減らせ。 限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』より解説する。
会社の成長を共に願い、目標に向けて変化できるチームをつくる。そのためには、リーダーが未来の姿を明確に描き、粘り強く伝えていくしかありません。
これからの日本は人口減少でマーケットが縮小し、「売上減×人件費増×原材料費高騰」の時代です。そのなかでも会社とメンバーを守るには、便利なデジタル化やデータ分析の導入などを使わない手はありません。それを職場で推進する必要があります。
しかし、メンバーの立場になって考えれば、いくら「会社の生産性を上げるため」と説明しても、「今までもやり方を変えるなんて面倒くさい」と思うのは当然です。その面倒くささを越えた先に、より働きやすい環境、よい待遇があることを示す。そうすれば、経営層と現場が同じ目標を共有できます。
そこで、次のようなメッセージを自分の言葉で伝えていました。
「みなさんの給与を上げるために、もっと会社の利益を増やしたい。みなさんがきちんと休暇を取れるように、店舗のオペレーションを効率化したい」
当時は、朝礼で毎日のように伝えていました。
さらに、現場のメンバーに「この作業って面倒だよね」「手間がかかるよね」などと会話しながら、楽になる方法を提案して一つずつ実行していきました。その結果、メンバーからの表立った反発はありませんでした。
しかし中には途中で辞めていった人もいます。「新社長である私が性に合わない」といった理由があったようです。その場合は、それまで店に貢献してくれたことへの感謝を伝え、去る者は追わずの精神で粛々と送り出しました。
「メンバーからの抵抗や反発を避けたい」と思うかもしれません。ですが、変わることをためらい、時代の変化に対応できないまま売り上げや利益が縮小し、メンバーに給与を払えなくなったりしたら本末転倒です。変化を恐れていては、ビジネスや事業において最善を目指すことはできません。
まさに、経営者やリーダーに求められる思考を表した言葉があります。中国の古典『老子』の言葉、「上善如水」。「最高の善とは水のようなものである」という意味の故事成語で、万物に利益を与えながらも他と争わず、自らは一つの形にこだわることなく柔軟に形を変えていく──。そんな水の性質を表現した言葉です。
たとえ抵抗する人や去っていく人がいても、それは必要な変化であり、経営者として受け止める責任と覚悟を持たなければならない。そうでなければ、環境変化の激しい時代に企業や事業を牽引することはできません。
実際に、メンバーの待遇や働き方は大きく変わりました。
正社員の平均給与は、以前は月給20万円+賞与10万円弱で、年間280万円ほどです。現在は平均32万円+賞与80万円なので、年間で460万円くらいです。給与は160%アップしています。
働き方も12年前から大きく変化しています。来客予測によって適正なシフトが組めるようになり、現場の仕事も自動化されたり、省力化されたりしたことで、メンバーが残業することはほぼなくなりました。
「ゑびや」で働くメンバーは、午前9時に出社し、午後6時に退社するのが基本的なワークスタイルです。伊勢神宮を参拝できるのは日中だけなので、食堂の営業時間は午前11時から午後4時まで。発注や在庫管理などは自動化しているので、店を閉めたあとは片付けや明日の仕込みの確認など最小限の仕事をこなせば、定時には帰れます。観光客が増える連休や年末年始は午後6時以降もシフトに入ってもらいますが、この例外を除けば食堂で働くメンバーの残業時間はゼロです。
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