1963年生まれ。旅行会社、話し方セミナー運営会社、大手生命保険会社の営業職を経て2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所を開業。労務管理に関する企業相談、セミナー講師、執筆を多数行う。2011年より千葉産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策促進員、2020年より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。
現代ビジネス、ダイヤモンド・オンライン、オトナンサーなどで執筆中。
人手不足の深刻化に伴い、優秀な人材の確保は企業にとってますます重要な課題に。これを受け、多くの企業が「賃上げ」を行っています。人件費の増加に伴い、企業は限られた予算の中で人的資本への投資効果を最大化することを求められるようになりました。
このような状況下で、給与体系の見直しの必要性が高まり、具体的な方策の一つとして注目されているのが「賞与の給与化」です。実際にソニーグループやバンダイなどの有名企業がこの制度を導入し、話題になりました。
本稿では、日本の会社員が月給を重要視する理由から、主に企業が賞与の給料化を実施した場合のメリット・デメリット、これからの給与体系のあり方について解説します。
都内にある機械メーカーで、従業員数が200人のX社は、2024年4月に社員1人当たり平均で5%以上の賃上げを実行しました。昨今の経済情勢の中で、今後も賃上げが必要だと考えた社長以下経営陣は、その資金を確保する目的もあり、夏・冬と原則年2回、2カ月分を支給していた賞与をいずれも原則1カ月分支給へと変更することにしました。
1月の集会で、社長が全社員への説明を行い、全員に詳細な内容の文書も配布しています。月給も年収も増えるということで、その時点で特に反対意見はなく、就業規則の変更も無事に済ませたのですが……。
7月中旬、Aさん(管理課勤務の30歳)は「今日はボーナスの日だ」と朝からウキウキしていました。旅行が趣味のAさんは、ボーナスを当て込んで夏休みに海外旅行を予約しています。ところが、賞与明細を確認したところ、目に飛び込んできたのは……。
Aさん: 「えっ? 何これ!」
B課長(48歳。管理課長でAさんの上司): 「いきなりそんな大声出してどうした?」
Aさん: 「課長、見てください。僕のボーナス、去年の冬よりめちゃくちゃ減ってます」
B課長はAさんのスマホの画面をのぞき込みました。
B課長: 「あーそれね。社長が集会で話してたことだよ」
Aさん: 「すっかり忘れてた。困ったなあ。自分の基本給は28万円だから、額面で56万円もらえると思って、タイ旅行の予約をしちゃいました」
B課長: 「君は遊びに使えるからまだいいよ。ウチなんか住宅ローンの返済に子ども2人の学費の支払いもあるし……。去年は額面で90万円だったボーナスが45万円だなんて、全然足りない。確かに給料は上がったけど、生活が楽になった実感なんてないよ」
2人が周りを見ると、みんな賞与明細を見てため息をついています。中には「わーっ、本当にダダ下がり!」などと冗談交じりに騒ぐメンバーもいました。
夕方所用で管理課を訪れたC総務部長(50歳。会社の人事・総務担当責任者)は、部署の雰囲気がいつもと違うことに気付きました。
C部長: 「あれ?みんないつもより元気がないみたいだけど」
B課長: 「原因はボーナスですよ。いきなり半分になっちゃったからみんながっくりきてるってわけです。私もどうも仕事のやる気がでなくて」
C部長: 「そうか、よほどボーナスを楽しみにしていたんだな。事前に周知して反論がなかったので、納得してくれたと思っていたのに違ったようだ。この調子じゃ、モチベーションの低下が心配だ」
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