さらに、ただノルマを課すだけでなく、部内でも積極的にAI活用共有の場を設け、活用を後押しした。
「週1の部会でのシェアや週2回のAI朝会など、部内でAIの活動に関するシェアを行う時間が週4、5回あります」(西家氏)
他にも、AI活用が上手なメンバーと未経験者をマッチングして1on1を実施した。部会や朝会での発表者には、積極的にポジティブな声がけを行うように心がけたという。「『そんな使い方知らなかった』『それすごいね』という声がけが、新たな使い方を考えるモチベーションになっています」と西家氏は効果を語る。
こうした部門レベルの取り組みを、全社規模で支えたのが人事部門だ。
IT部門主導でAI導入を進める企業も多いが、なぜSansanは人事部門が中心となってAI活用を推進しているのか。この疑問に対し、野村氏はこう答えた。
「技術の問題ではなく、人と組織の問題だからです」
技術導入だけなら、IT部門が中心となった方が効率的かもしれない。しかし、野村氏が指摘するのは、AI活用の本質は技術ではなく、仕事の仕方や働き方の変革だということだ。
「AIを当たり前に使うには『この業務はAIに置き換わるかもしれない』という発想で仕事を見直す必要があります。AIを使える人が使えない人を引き上げる。リテラシーの低いメンバーにも危機感を持ってもらい、一緒に学んでいく。これらは全て組織文化の領域ですから」(野村氏)
実際、同社では2024年末のAIファースト宣言を受けて、2025年1月から人事部とコーポレートシステム部の合同で「AIオンボーディングチーム」を立ち上げた。このチームが主導して実現した施策は、まさに「文化づくり」そのものだった。
例えば、2週間に1回の全社会議では、AI活用事例のナレッジ共有を定例化。Notion AIの使い方をチェックシート化して全社展開し、誰でも基本的な活用ができるようにした。さらに、OpenAIやGoogleのカスタマーサクセスチームを招いた勉強会を開催し、実際の担当者との壁打ちセッションも設けた。
「『使ってください』というだけでは、どうにもなりません。実際にどうやって使ったらいいのか、“How”の提供を意識的に行いました」(野村氏)
この文化醸成には期間がかかったが、時間をかけてでもこの土台を丁寧に築き上げたからこそ、AIファーストという劇的な働き方の変化が受け入れられたのではないか、と野村氏は分析する。
「変化に対してポジティブに受け入れ、自分たちを変えていくという意識が当社には根付いており、そこにAIがやってきました。最初は戸惑うメンバーもいましたが、実際に触ってみると『とても便利だ』『仕事が楽になる』と気付き、すぐに順応していきました」
こうして、個人レベルでのAI活用は急速に進んだ。しかし、野村氏は新たな課題も見えてきたと語る。
Geminiを業務で使いこなす! Google Cloudが指南する「プロンプト入力」4つのポイントは?
年間「8.7万時間」の削減 ソフトバンクの営業組織は、なぜ「AIに優しく」するのか
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体
DXの“押し付け”がハラスメントに!? クレディセゾンのデジタル人材育成を成功に導いた「三層構造」とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング