このように考えていくと、ニューロダイバーシティは発達障害などの特性がある人だけに恩恵のある取り組みではないと分かるだろう。先述した村中氏は、あらゆる人の脳や神経由来の多様性に着目する「広義のニューロダイバーシティ」を提唱し、これまでの「標準」や「ルール」を疑ってみることを促している。重要なのは「特定の人のために」ではなく、自分も含めて「個々人が働きやすくなるために」変えられるルールはないかを検討し、試してみることだ。
こうした考え方を実践的に推進しようという動きも生まれている。一般社団法人NIMO ALCAMOは、体調に波がある人や接客にストレスを感じる人など、従来の働き方に適応するのが困難な人が「そのままで関われる仕事やルールをつくり出す」実践を行ってきた。その経験を踏まえて2025年夏に始めたオンラインスクール『WORK RULE SHIFT SCHOOL』では、働く側が「合わせる」のではなく、働く人に「合わせて」仕事や職場のルールを変えていく「ワークルールシフト」を提唱している。
ニューロダイバーシティの真価は「個人のためか、組織のためか」という二者択一ではなく、両者がともに成長する好循環を生み出すところにある。
個人が自分らしさを発揮できる環境で働いて高いパフォーマンスを実現し、それが組織の競争力向上につながる。組織が多様な人材を受け入れることで新たな価値を創造し、それがより多くの人に活躍の機会をもたらす――こうした循環を実現するためには、従来の「標準的な働き方」を絶対視するのではなく「成果を出すために本当に必要な要素は何か」を問い続ける姿勢が不可欠だ。それが、誰もがやりがいをもって働き、さらに組織の成長にもつながる良い循環をもたらすだろう。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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