――副業に関しては、申請すれば基本的には承認されるのでしょうか。
取引先との利益相反などから却下するケースもあります。本人が気付いていなくても、上長や人事が確認した際に「ここは取引先だから避けたほうがいい」「技術情報の漏洩リスクがある」と判断することがあります。2024年度は、申請が約370件あり、そのうち承認に至ったのが約310件でした。
――約60件、つまり2割ほど却下している計算になりますね。この「利益相反」に関する審査基準は、線引きをする難しさもあるかと思います。副業が当たり前の世の中になるにつれ、緩和していく可能性はありますか。
現状、当社ではその予定はありません。技術情報の共有やスキルの流出、情報漏洩などが起こるリスクを考えると、そこは一定の軸を保ったまま慎重に運用していく必要があると考えています。
――日立の場合、原子力や新幹線など、国策に関わるような専門技術もあります。こういった部署の副業はどうなっているのでしょうか。
確かに、原子力関連など機密性の高い業務に携わっている部門では制約が厳しいです。国籍による就業制限もあり、そもそも本業として就ける人が限定されています。そのため、たとえ副業が認められていたとしても、技術的な情報や知見が外部に流出する可能性のある職種では慎重な判断をしています。
もちろん、そうした部門の方でも、例えば、野球教室のコーチをしたり、写真撮影を副業にしたりといった本業と関係のない活動であれば問題ありません。ただし、企業間の副業や業務の延長線上にある仕事となると、やはり許可を出すのは難しいのが現状です。
――原則として「非雇用型(業務委託)」に限定しているのは、厚生労働省のガイドラインを意識してのことでしょうか。
そうです。雇用型の社外副業については、労働時間を通算する必要があるなど、さまざまなルールが厚労省から示されています。
当社としても、そうした法的要件を踏まえる必要があるため、雇用型の社外副業は現時点では難しいと感じています。実際、副業先での勤務時間を証明することは非常に難しく、万が一、外部での業務が時間外に当たる場合には、個別に確認して対応しますが、これまでそのケースはほとんどありません。
――勤務態度や評価によって却下することはあるのでしょうか。
基本的にはありません。前回の記事で話した4つの基準の通り「本業に支障をきたしていないか」という点を踏まえ、本業での成果、副業をする意義を理解して取り組んでいるかを確認しています。
「この人はOKだけど、あの人はダメ」という判断は、公平性の観点からも避けるべきです。今は働き方も柔軟化していますので、勤務日数や出社頻度だけで良し悪しを判断することはしていません。
――2023年10月の試行段階から本格導入に移る際、制度面でどんな変化があったのでしょうか。
大きな変更点はありませんが、あいまいだった部分を明文化し、規則として体系的に整備したことが一番の違いです。例えば申請手続きや判断基準、運用のQ&Aなど、これまでは現場の判断に委ねていた点を整理し、どの事業所でも同じ基準で運用できるようにしました。試行期間中に現場から挙がっていた疑問や改善要望を反映し、制度全体をブラッシュアップしたことが、本格導入段階での大きな変化だと感じています。
――社員の副業経験を本業に生かしてもらうために、会社として取り組んでいることはありますか。
社外副業は個々の従業員の挑戦や社会貢献につながるだけでなく、最終的には会社にとっても学びや気付きを還元できる取り組みだと考えています。ただ、現時点で「社外副業を経験した人だからこのプロジェクトに参画してもらう」といった直接的な運用はしていません。
むしろ、社外副業を通じて自ら課題を発見し、異なる環境でその解決に挑戦することで、自身のケイパビリティ(能力や強み)や視野を広げることを狙いとしています。その経験を経て本業でより大きな成果を出せたり、新たなキャリアを描けたりすることが、結果的に会社にもプラスになる。そうした自律的なキャリア形成を促すことが、社外副業制度の根本的な目的です。
――今後、社員の働き方や組織の姿はどのように変化していくと考えていますか。
従業員一人一人が「自分で考えて行動する」姿勢を強めていると思います。ここ5〜10年でビジネス環境や働き手の価値観は大きく変わり、多様化が進みました。その中で、一人一人が自分のスキルや経験を整理し、「会社や社会にどう貢献できるのか」「どんなことに挑戦していくのか」を自律的に判断するようになると思います。そうした自己理解と能動的な行動が、結果的に組織の成長を支える時代になると感じています。
以上がインタビュー内容だ。日立の副業制度は、組織力を高めるための人材戦略であることが分かる。
印象的なのは、申請の2割を却下してでも「利益相反」の基準を譲らない厳格さだ。このルールがあるからこそ、逆に社員は安心して副業を始められるともいえる。
企業は「社員を囲い込む」ことで成長するモデルから、外の世界で研鑽(けんさん)を積んだ「自律した個人」に選ばれ続けるモデルへと、その前提を書き換える必要があると感じた。日立が歩んでいる道は、まさにその現場といえる。
【イベント情報】「ジョブ・クラフティング」のすすめ
仕事の「やらされ感」を「やりがい」に変えるアプローチとして「ジョブ・クラフティング」が注目されています。AIが定型業務を代替する今日、人間は仕事の「意味」を再定義する力が問われています。高モチベーションな業務への集中にはAI活用による効率化も必須条件です。本講演では、職場のレジリエンスを専門とする研究者が、AI時代に従業員の意識と行動を変える実践論を解説します。
日立が踏み出した「副業解禁」 “試行1年”で磨き上げた制度設計の「4つの承認基準」とは?
日立「Lumadaの中核人材」が副業でビール醸造 地域貢献がマネジメント力を育てた理由
企業ブランドを外すと何が残る? 日立の管理職が“ビール醸造”から学んだ、2030年の副業のかたち
副業も「成果の一部」になる時代へ 日立Lumada担当部長が実践する「副業管理職」という働き方
「会議はまず笑わせろ」――28万人企業・日立副社長が明かす「逃げない」リーダー論
日立・阿部副社長に聞く“最高益”更新の舞台裏 巨額赤字から組織を復活させた変革とは?
日立が狙うフィジカルAI「20兆円市場」 Google Cloudとの連携で描く勝ち筋Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング