“絶滅危惧”の屋上遊園地、数億円かけて再生 松坂屋名古屋異例の挑戦、成果は?地域経済の底力(2/4 ページ)

» 2026年03月03日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

複数のコンセプト案から選ばれた「新旧融合」

 松坂屋名古屋店の屋上遊園地のリニューアルでは、コンセプトを固めることから進められた。リニューアルプロジェクトを担当した大丸松坂屋百貨店 本社営業本部店づくり推進部の池田航氏によると、当初は3つの案があったという。

 1つ目は、鏡張りの展望スペースや特別なドリンクを提供するVIP席を設けるなど、ラグジュアリー志向のテラスを作るというもの。2つ目は、地元企業とタイアップし、昔ながらの遊具を複数設置して完全に公園化するというもの。3つ目は、レトロなコイン遊具を残しつつ、隣接するアートフロアと連動した屋上パークも作るという、新旧をうまく融合させたものだ。最終的に、3つ目の案が採用された。

大丸松坂屋百貨店 本社営業本部店づくり推進部の池田航氏

 池田氏は“ウルトラC”の4つ目があったことも明かす。

 「キャラクターテーマパークを誘致するというアイデアもありました。ただ、こちら側のコントロールが難しく、投資額も読めなかったため、早い段階で断念しました」

 2019年から店舗の改装プロジェクトの実施案を作り始め、2021年頃から屋上遊園地の計画が本格的に動き出した。そこから新たなパートナー企業に声をかけていったのだが、その一社が幼児用遊具の開発などを手掛けるジャクエツだ。

 同社を選んだのは、全国の保育園や幼稚園施設の設計や施工、環境構築などに携わっており、子どもに関する知見が豊富だったためだ。「今回の方針として、子どもが親と遊び、思い出を作るという点を最も大切にしたいと考えていたため、この会社が最適だと判断しました」と池田氏は説明する。

 ジャクエツは、今回のリニューアルのためにデザイン遊具を製作したほか、アートやスポーツの要素を各所に散りばめる空間デザインを行った。

 リニューアル前は「ソラテラス」という屋上庭園があった松坂屋名古屋店。季節の植物が植えられ、植物の販売も行われていたが、維持管理が難しくなり“単に老朽化した場所”と化してしまっていた。そのため、空間デザインはもちろん、遊具の修復も行い、レトロながらも新しさを感じられる場所にする必要があった。

 遊具の塗装を担当したのは、コイン遊具メーカーである加藤工業だ。同社は当初、新たな投資には消極的であった。池田氏は何度も訪問して丁寧な議論を重ね、全てのコイン遊具を引き上げて特殊な塗装を施し直してもらうことで合意した。約10台の4トントラックで名古屋と大阪間をピストン輸送し、深夜に遊具の入れ替えを行うなど、作業には困難を伴ったが、最終的に貴重な遊具が蘇った。

 「さまざまな方が見学に訪れますが、特定の型式の新幹線の遊具が美しい状態で残っている例はほとんどないそうです。改めてコイン遊具そのものの価値にも気付かされました。交渉には時間を要しましたが、その分得られたものは大きかったと考えています」

非常に希少価値の高い新幹線のコイン遊具

 現在国内で稼働しているコイン遊具の部品の多くは生産が終了しており、故障すれば修理はほぼ不可能だ。実際に他の百貨店の屋上遊園地でも「メンテナンス中」という張り紙が貼られたままの遊具があるという。そうした意味でも、今回の塗装し直しなどによる遊具の維持は、次世代につなぐための重要な取り組みだったと言えるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR