生成AIの開発力強化も、経産省が支援を強化している政策だ。2024年2月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともにGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)を立ち上げた。
GENIACは企業が生成AIの持続的な開発力を高め、社会実装を加速することを目的に、さまざまな支援をしている。具体的には、大量のデータで学習させる基盤モデルの開発力向上を目指して、GPU(画像処理半導体)などの計算資源の調達やデータセットの蓄積、ナレッジの共有などをする。GENIACの現状を、情報産業課AI産業戦略室の秋元裕太総括補佐がこう説明する。
「GENIACが立ち上がって2年が経ちました。これまで製造業や小売業、コンテンツなど、日本が強みを持つ領域でモデル開発を進めてきました。今後、重点的に支援したいのがフィジカルAIの領域です。具体的には視覚、言語、行動を統合してロボットに意思決定させる基盤モデル『VLA』(VisionーLanguageーAction)です。VLAによって視覚、言語、行動を統合することで、ロボットは自然言語の指示で意思決定し、実行します」
フィジカルAIの対象はヒューマノイドや四足走行ロボット、自動運転、工場などの自主制御型ロボットなど多岐にわたる。
「ヒューマノイドは米中が先行していますが、産業現場での実装は道半ばの状態です。日本の強みである製造業の現場データを学習させ、モデル開発を進めることができれば、物理空間の領域で日本の勝ち筋が見えてきます。現場データをモデル開発に使うための環境整備を支援していきます」
フィジカルAIについては、業界を挙げた体制作りも進んでいる。2025年3月にはトヨタ自動車、NEC、富士通、KDDI、GMOインターネットグループ、SB Intuitionsなどが正会員となって、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)が発足した。
AIRoAには、大企業とスタートアップが産業の垣根を越えて参加。オープンかつ大規模なデータ収集と統合、基盤モデルの開発とオープンソース化、高度な汎用ロボットの実現に向けて、スケール可能なロボットデータエコシステムの構築を目指している。
経産省は開発費としてAIRoAに20億円を支援している。さらに、NEDOがVLAの開発に必要なデータ基盤の整備をAIRoAに委託するなど、2025年度から2029年度までに約205億円を投じる計画だ。
また、AIに関しては大企業だけでなく、中小企業やスタートアップに対しても支援策を講じている。従来のIT導入補助金は、2026年度からデジタル化・AI導入補助金へと名称と制度を変更して継続するという。GENIACでは、NEDOの懸賞金活用型プログラム「GENIACーPRIZE」を実施しており、3月24日に最終審査と表彰式が行われる予定だ。GENIACーPRIZEの特徴を、秋元総括補佐が説明する。
「自社の課題を抱える事業会社と、その課題に対するソリューションを提供できるAIの開発者がタッグを組んで、課題解決を提案するプログラムです。いろいろな地域の皆さんから応募していただきました。また、GENIACが実施する公募でも、多くの中小企業やスタートアップが採択されています。AIは技術の変化が激しいので、機動力のある中小企業やスタートアップもしっかり支援していきます」
経産省では、最先端半導体の量産を目指すRapidus(ラピダス、東京都千代田区)に巨額の支援を行っている。1000億円を出資し筆頭株主となったことが2月27日に発表されたほか、政府支援は2027年度までに累計2.9兆円に及ぶ見通しだ。ラピダスや生成AI開発への支援が進む中で、齋藤課長補佐は今後の課題に人材育成を挙げる。
「ソフトとハードをつなぐ人材の育成に、課題があると思っています。ソフトとハードは一体的であるからこそ、システムサービスとして強みを発揮できます。日本の家電業界が世界をリードしていた時代には、自社でソフトとハードを作っていました。それが、ある時点から分業が始まり、今では分離しています。それに対してGAFAMは自社のAIサービスのために半導体も製造しています。結局のところ、ハードとソフトは一体です。日本も元に戻していく必要があると考えています」
経産省は今後、国内における半導体の設計拠点の整備を支援する方針だ。齋藤課長補佐は「ソフトウェア企業などの人たちが拠点に来て半導体設計に携わってもらうなど、ソフトとハードをつなぐ人材育成の仕掛けを作りたい」と構想を話す。
政府は、2040年までに国内で生産される半導体の売上高を40兆円まで増やし、AIロボットも20兆円の市場を獲得する目標を掲げる。半導体やAI開発、人材育成において、いかなる戦略を描いていくのかが今まで以上に重要になりそうだ。
以上が経産省へのインタビュー内容だ。この特集では、次回以降、AI革命を支える日本企業のキーパーソンにインタビューしていく。
AI革命の成否を分けるのは、もはやソフトウェア単体ではない。膨大な計算を担う半導体の進化を材料面で支えるレゾナック・ホールディングス、データセンターの熱を食い止める冷却技術を擁するダイキン、先端チップを国内の現場へ届けるマクニカ、そして超高速通信インフラを支えるフジクラ──。
日本企業がいかにしてAI革命を支え「失われた30年」を覆すシナリオを描いていけるのか。各分野のトップ企業への取材から、AI時代における日本企業の勝ち筋を考えていく。
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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