エニーカラーのエクイティストーリー(投資家向けの成長戦略資料)の核は、一貫して「再現性」だった。
VTuberは個人の才能に依存しない。「箱」(事務所)の仕組みでタレントを量産できる。新人を入れればファンがつく。だからスケーラブルで高成長が続く。中の人は開示されていないので、スキャンダルも起きない――。
しかし、筆者がここで問題提起したいのは、その「正の再現性」の裏側にある不都合な真実である。
VTuberの多くは業務委託契約(個人事業主)であり、労働基準法の保護が及ばない。エニーカラーの上場時の目論見書にも、ライバーと業務委託契約を締結しアバターや配信アカウントを貸与して活動してもらう旨が明記されている。
個人事業主である以上、労働時間の規制は存在しない。しかし現実には、視聴者が最も多い深夜帯の配信が常態化しており、実質的に深夜労働に近い状況が生まれている。誹謗中傷への対応もタレント個人に委ねられがちで、メンタルヘルスケアの体制は外部からは見えにくい。
その結果、2024年から2025年にかけて、にじさんじの繁栄を牽引してきた複数のベテランライバーが卒業している。
理由は多岐にわたるが、共通しているのは「予測不可能」であるという点だ。
ライフステージの変化やVtuber自身の興味関心の変遷に伴う前向きな理由での卒業も一定数存在することも事実だ。
しかし、タレントでもある卒業者が、いじめ、体調不良、精神的負担、適応障害といった、あえて禍根を残しかねない事由を公表しながら引退を余儀なくされるケースが目立つ。
上記には含まれていないが、卒業理由が非公開のタレントも同時期に数多く引退しており、活動期間が1年程度のVTuberも存在する。「再現性がある」はずのビジネスモデルにおいて、人が壊れるという「負の再現性」もまた現れていないだろうか。
株価が急落する前におけるエニーカラーのPER(株価収益率)は20〜25倍程度で推移していた。簡単にいうと、エニーカラーの時価総額は現時点における20〜25年分の利益総額とイコールである。
しかし、2017年末のVtuberブームから8年足らずであるにもかかわらず、稼ぎ頭は激しく入れ替わり、稼げるVTuberから他事務所や個人勢として転生する動きも目立ってきた。
つまり、足元のVTuber事務所の株価下落は、タレントの消耗を嫌気する市場の態度を冷徹に表したものであると考えられる。
足元のエニーカラーにおける予想PERは13倍台前後にまで落ち込んでいる。これは日本最大の通信会社であるNTTとほぼ同じ水準だ。エニーカラーはもはや有望なスタートアップのように何十年分の利益を先取りできるビジネスモデルとはならないと市場は認識しているのである。
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