生成AIの導入競争が激しさを増している。トークン消費量、エージェント数、AIが書いたコードの割合。企業はこぞって「どれだけAIを使っているか」を競い始めた。
しかし、その競争はどこか本質から外れている。
ベンチャー投資家のアルフレッド・リン(Alfred Lin)氏は、AI時代の競争力について重要な指摘をしている。AIの導入量は、企業の優位性をほとんど説明しない「見せかけの指標」になりつつある、というのだ。
理由はシンプルである。AIによって、これまで企業の競争力を左右してきた前提そのものが崩れ始めているからだ。
これまで企業がプロダクトを生み出す上で苦労してきたのは、そもそも「作ること」そのものだった。優秀なエンジニアを採用するのは難しく、コードを書くには時間がかかり、新機能を世に出すまでには長い開発期間が必要だった。だから企業の競争力は、どれだけ優秀な人材を集められるか、どれだけ速く開発できるかといった「実行力」によって決まっていた。
ところがAIの登場によって、この前提が崩れ始めている。コードはAIが書き、試作品は短時間で作れ、改善も高速で回せるようになった。つまり、これまで企業の差を生んできた「作る力」そのものが、急速にコモディティ化し始めているのだ。その結果、勝敗を分けるポイントは、全く別の場所へと移った。何を作るのか。どの方向に進むのか。何をやめるのか。つまり「判断」である。
私自身もAIを活用することで、月間の記事執筆本数は4本から28本へと増えた。単純計算で7倍の生産性向上である。AIを使わない記者と比べれば、圧倒的な差がついたように見える。だが、その優位性は長くは続かない。他の記者も同じようにAIを使い始めれば、その差は一瞬で埋まるからだ。
生産性向上が「当たり前」になった後、生き残るために必要な“唯一の問い”とは
リサーチも執筆も、AIを使えば誰でも一定レベルまでは到達できる。つまり「速く書ける」「たくさん書ける」という能力は、すぐに当たり前のものになっていく。では、その先に何が差を生むのか。答えは「何を書くか」だ。
読者が本当に求めているのは、単なる情報の整理ではない。まだ言葉にできていない違和感を先回りして言語化し、根拠を持ち込んでくれる視点である。
AIは万能ではない。むしろ性質としては極めて単純だ。与えられた方向を、ひたすら加速する。明確な戦略を持つ人や組織は、AIによってより速く、より深く正しい方向へ進める。一方で、方向があいまいな組織は、AIによってより速く混乱し、より多くの無駄を生み出す。AIは能力の底上げをもたらす一方で、判断力の差をこれまで以上に拡大してしまうのである。
AI時代の競争は、すでに次の段階に入っている。AIを使うかどうかで差がつく時代は、そう長くは続かない。競争力を決めるのは、導入量でも、速度でもない。何を選び、何に賭け、何を捨てるかという判断の質である。
AIを導入した企業が勝つのではない。AIを使って、より良い判断ができる企業だけが勝つ。そして、その差はこれまで以上に大きく開いていくことになる。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AIを使っても勝てない企業が続出する理由」(2026年3月30日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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