未来学者で米XPRIZE財団の創設者として知られるピーター・ディアマンディス(Peter Diamandis)氏は「From UBI to UHI (In 3 Steps)」と題したエッセイを発表した。
そこで、AI時代の所得保障をめぐる大胆なシナリオを提示している。AIとロボットが大量の仕事を代替する時代に、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)をどう導入し、最終的により豊かな生活水準であるユニバーサル・ハイ・インカム(UHI)へ移行させるかを、3段階で描いた思考実験だ。
同氏の出発点は明快である。これまで経済学や政策立案の前提となってきたのは、技術革新で仕事が失われても、最終的には別の仕事が生まれ、労働市場は自己修復するという考え方だった。蒸気機関、電力、コンピュータの時代には、その前提がある程度成り立っていた。
だが「今回は違う」と同氏は言う。大規模言語モデル、マルチモーダルAI、ヒューマノイドロボットは、一部の職種だけでなく、ほぼ全産業にまたがって人間の労働価値そのものを同時に押し下げる可能性があるからだ。
ディアマンディス氏は、移行期を3つのフェーズに分ける。
第1段階は2025年〜2028年の「破断と下支え」だ。若者が大学を出ても仕事に就けない。中堅の物流管理職が自動化で職を失う。そうした雇用喪失が生活の危機として現れるという。
同氏はこの段階で、米国では月3000ドル、年3万6000ドル程度の現金給付(UBI)が必要だと主張する。これは単なる延命ではなく、平均的な生活費(家賃、食費、光熱費など)を賄うための最低金額である。
さらに、完全失業へ一気に向かうのを防ぐ暫定策として、賃金を維持したまま労働時間を32時間に短縮する「週休3日型」の働き方も併用すべきだとしている。これは雇用の総量を分け合うだけでなく、仕事が持っていたアイデンティティや生活リズムをつなぎとめるため必要な施策だとしている。
月3000ドルで“富裕層”として暮らせる仕組みは、この先に。
第2段階は2028年〜2031年の「オートメーション配当」だ。AI時代には、金利が下がっても企業は人ではなくAIやロボットの導入に資金を向ける。この逆説に対し同氏が提案するのが、AIが生み出した生産性向上の一部を国民全体へ戻す「オートメーション配当」という仕組みだ。
アラスカ州の石油配当基金を参考に、全国版の「国民生産性基金」(National Productivity Fund)を作り、AIによる代替労働に応じて企業が拠出する構想である。同氏の試算では、支援が必要な5000万〜8000万人を対象にした場合、既存制度の整理も含めれば、純増分は年1兆〜1.5兆ドル程度に圧縮できるという。
単なる理念ではなく、資金の流れまで含めて構想している点に特徴がある。
第3段階は2031年〜2035年の「大デフレ」と「UHIの瞬間」だ。ここでいうUHIとは、現金給付の実質価値が、AIによる生活コストの急低下によって大きく膨らんだ状態を指す。デジタル化で音楽や地図が無料化したように、次は交通、住宅、医療、食料、エネルギーといった物理世界にデフレが広がる。
ロボタクシーにより交通費は4分の1以下になり、建設ロボットにより住宅価格は3分の1程度に下がる可能性がある。こうしたコスト低下により、年3万6000ドルの給付でも、現在より遥かに高い実質購買力を持つようになるという。「小切手が増えるのではない。世界が安くなる」ことが、UBIからUHIへの転換点だとしている。
ディアマンディス氏は、2026年から2031年ごろに最も危険な「死の谷」が来ると見る。仕事は失われ始め、給付が始まっても、生活コストの本格的下落はまだ訪れないフェーズだ。ここで社会不安が臨界点を超えないよう、同氏は「Abundance XPRIZE」を立ち上げた。住宅や食料などの生活基盤パッケージを、4人家族向けに月250〜1000ドルで提供できる技術に賞金を出す仕組みだ。
AI時代に本当に問われるのは、仕事が奪われるかどうかではない。AIが生み出す膨大な生産性向上とコスト低下の果実を、誰が受け取るのかという「分配の設計」だ。
UBIからUHIへの議論は、もはや福祉政策ではなく、AI時代の新しい資本主義をどう設計するかという問いそのものである。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AIで仕事が消える その次に来るのが全員高所得という新発想」(2026年4月1日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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