「生物学における50年来の難題に対する解決策」――こう銘打ったAIモデル「AlphaFold」(第2世代)が2020年に登場した(公式ブログより)。英国に拠点を置くGoogle DeepMindが開発した同AIは、タンパク質などの化合物探索に特化しており、創薬や生物科学の研究を加速させると期待を集めている。
AlphaFold2を使った東京大学大学院農学の伏信進矢教授(農学生命科学研究科)は「6年間解けなかった分子の結晶構造があっさり解けた」とコメント。AlphaFoldの開発者らは「ノーベル化学賞」を2014年に受賞した。
こうした「AI創薬」に注目が集まっている。国内でも、AIスタートアップのPreferred NetworksがAI創薬技術を開発したほか、中外製薬、武田薬品工業、塩野義製薬などもAI創薬技術の活用や国内外スタートアップとの連携を進めている。
しかし、AlphaFold2の登場から6年がたった2026年現在「画期的な薬が市場にたくさん出回っている」「製薬会社や医療現場が劇的に変わった」という話を耳にする機会は少ない。ボトルネックがどこかにあるのか、そもそもAI創薬が幻想だったのか。
アステラス製薬などにAI創薬サービスを提供するFRONTEO(フロンテオ、東京都港区)の守本正宏社長に疑問をぶつけると、AI創薬の課題が浮き彫りになった。
「(世の中に大きな影響を与えるAI創薬発の薬が出てきていないことは)確かにその通りだ。AI創薬は10年以上前からあるが、AIの能力に課題があった。従来のAIは『研究者の業務改善』には有効だが、科学においては『ブレークスルー』『驚くような発見』が欠かせない」(守本社長)
医薬品の研究プロセスは、主に次のようなステップを踏むという。
AlphaFoldやPreferred Networksのアプローチは、ステップ2「化合物探索」にAIを活用するものだ。標的分子に適合するタンパク質の立体構造をAIで解析・予測して“新薬のレシピ”を提案する。候補となるタンパク質の数は数億に上るとされ、構造が複雑なため解析に多大なコストがかかる。
AlphaFoldは、化合物探索をAIで高速化した。しかし、守本社長はそれだけでは足りないと指摘する。
「標的分子を見つけてから、それに合う化合物を作る手順だ。標的分子が分かっていない限り化合物探索AIは役に立たない。(中略)標的分子を見つけるにはバイオロジー(生命現象)の解明が必要なため、薬の開発に時間がかかっている」(守本社長)
標的分子は2万〜3万個のヒト遺伝子から候補を探すため時間がかかる。標的分子の候補がもし誤っていれば、いくら化合物を見つけても成果につながらない。
機械学習で構築したAIや生成AI、LLM(大規模言語モデル)などは「構造解析」「化合物リストの精査」などを得意とするため「AI企業ほど化合物探索をやりたがる。しかし研究者は『標的分子がないと話にならない』と思っている」(守本社長)といい、そのためAI創薬に対する期待と現状に差が生じているという。
こうした背景を踏まえて、FRONTEOは標的分子の探索に注力している。独自の方程式を用いたAIエンジン「KIBIT」(キビット)を使い、論文データを解析して因果関係を導き出して、まだ知られていない標的分子の候補を見つける。
守本社長は「因果関係を基にするため『この標的分子がなぜ有効なのか』を説明できる。従来は偶然に頼っていた研究者のひらめきを誘発できる」と説明する。同社には「疾患との関係性が未報告の標的を提案してほしい」という要望が研究者から届くという。
5月には、米オクラホマ大学の研究室がKIBITを用いて抽出した、すい臓がん新規標的分子候補の細胞増殖抑制に対する効果を確認したと発表した。同学によると従来は2年かかっていた標的分子候補の抽出を、2日で終わらせたという。
同社は、KIBITを軸にしたAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」をアステラス製薬や武田薬品工業などに提供し、研究者を支援している。
FRONTEOは、AI創薬拠点「KIBIT AI Biology Lab」を開設し、研究の加速や製薬企業との連携強化を図っている(関連記事)。守本社長は「われわれのAIが創薬においても、科学の発展においても、ブレークスルーに寄与できる」と力を込めた。
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