話をさらにシンプルにするために、歩合制で考えてみよう。
完全歩合制の営業パーソンは、売り上げゼロなら収入もゼロだ。売り上げを立て、原価を差し引き、固定費(家賃・設備・管理コスト)の案分を負担して、残ったものが自分の取り分になる。「言われた仕事をこなした」だけでは1円も入らないのだ。
固定給という仕組みは、この現実を見えにくくする。
月末になれば給料は振り込まれる。だから「仕事をしたら給料をもらう」という感覚になる。しかし本来は逆だ。企業が先にリスクを取り、給料を保証している。だからこそ、社員は安心して働ける。固定給とはいわば、企業が社員に与えている「前払い」のようなものだ。
したがって、歩合制なら「給料分だけ働く」という概念自体が成立しないと私は思う。稼いだ分だけが給料になるからだ。完全歩合制の世界では「静かな退職」なんて、やりようがないと思うのだが、どうだろうか。
このような「給料が支払われる構造」を知らないと、激しく環境が変化していることにも無頓着になっていく。
近年、エネルギー費・原材料費・物流費、そして人件費そのものが軒並み高騰している。世界的な紛争の影響、円安、資源価格の上昇――。こうした要因が重なり、あらゆる原価が上がり続けている。
昨年と同じ売り上げを上げても、コストが増えた分だけ粗利は減る。粗利が減れば、給与原資も圧迫される。つまり「現状維持」は、実質的な「後退」なのだ。
粗利を維持するためには、売り上げを増やすか、コストを抑制するか、あるいは付加価値の高い商品・サービスに転換するしかない。そのどれもが、創意工夫なしにはできないことだ。
顧客の価値観は多様化している。競合他社も変化し続けている。どの業界でも、これまでと同じことをしているだけで売れ続けることなど、もはやあり得ない。変化し続けるニーズに応えるために、常に新しい発想と行動が求められている。
だから「言われたことだけこなす」という人は、給料分働いている、とは言えないのである。
「給料分」のボーダーラインは昨年より高くなっている。来年はさらに高くなるだろう。静かな退職者がイメージする「給料分」は、本人が気付かないうちにどんどん遠ざかっていると受け止めよう。
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