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生産性を100倍にする新職種 エンジニアの不安に答える「AI時代のキャリア」とは?

» 2026年06月09日 07時00分 公開
[湯川鶴章、エクサウィザーズ AI新聞編集長]
ExaWizards

 クラウドコンテンツ管理大手、米Boxの最高経営責任者(CEO)、アーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏が4月にXへポストした長文投稿が、AIエージェントの導入を進める企業の間で大きな反響を呼んでいる。

 それから約2カ月が経過した現在、この投稿は「試験導入」から「本格運用」へと舵を切る企業にとって、具体的な組織設計のバイブルとなりつつある。

 レヴィ氏が描いたのは、いわばエージェント導入・運用担当と呼べる新しい役割だ。単にAIツールを使う人ではない。業務そのものをAIエージェントが動ける形に組み替え、現場で回るようにし、その後も改善を続ける人材である。

photo アーロン・レヴィ氏が描いたのは、業務そのものをAIエージェントが動ける形に組み替え、現場で回るようにし、その後も改善を続ける人材だ(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)

生産性100倍を見極める 「エージェント運用担当」の職務

 レヴィ氏は投稿の中で、この新しい役割について簡潔な職務イメージを示している。

 まず重要なのは、チームの中でどの業務にAIエージェントを入れると大きな効果が出るかを見極めることだ。同氏の判断基準は分かりやすい。エージェントを導入することで、その仕事を100倍速く進められるか、あるいは100倍の量をこなせるか、という視点だ。

 例えば営業部門なら、営業担当者が商談に入る前に、エージェントが大量の見込み客情報を調べ、優先順位や購買の兆しを整理して渡せる。法務や調達であれば、取引先から送られてきた契約書を確認し、条件を整理し、担当者が最後の判断をする直前のところまで持っていける。新規顧客の受け入れ業務でも、書類確認やシステム登録、担当者の割り振りといった定型作業をエージェントが肩代わりできる。

 さらに、社内に蓄積された規程や議事録、業務ノウハウをエージェントが参照できるように整えておけば、問い合わせ対応や意思決定の支援にも役立つはずだ。

人とAIの役割を再設計する「データの流れ」の統括

 この役割の中心にあるのは、単なるツール導入ではない。業務の流れを見直し、人とAIの役割分担を設計し直すことだ。

 レヴィ氏によれば、この担当者はまず、社内にある規則性のある構造化データと、文章や画像などの非構造化データが、どのように流れているかを整理しなければならない。その上で、どんな業務フローが理想かを設計し、エージェントが仕事を進めるのに必要な情報や前提条件を与え、どの段階で人が確認や判断に入るかを決める必要がある。

 しかも、それで終わりではない。モデルやデータが変わるたびに評価や見直しをし、重要業績評価指標であるKPIを追いながら、継続的に運用を改善していくことまで求められる。つまり、一度仕組みを作って終わりではなく、現場で成果が出続けるように回し続ける役割なのだ。

技術と現場をつなぐスキル 各チームへ常駐させる必然性

 この仕事には、ある程度の技術理解も欠かせない。レヴィ氏は、AIの機能拡張であるSkillsや、外部ツールと連携する標準規格であるMCP(Model Context Protocol)、文字入力でシステムを操作するCLIといったツールを扱い、業務システム同士をつなぎながら自動化を進められる力が必要だとしている。

 ただし、技術が分かるだけでは不十分だ。業務全体を見渡し、どこにボトルネックがあり、どこに導入すれば効果が大きいかを判断する現場理解も同じくらい重要になる。要するに、システムの仕組みと現場の仕事、その両方が分かる人材が求められている。

 レヴィ氏の提案で興味深いのは、この役割を一部の専門部署だけに集めるべきではないとしている点だ。同氏は、こうした人材は中央のIT部門やAI専門チームだけに置くのではなく、各チームに少なくとも一人は必要になるとみている。

 もちろん、中央の専門部門が全体方針や共通基盤を担う形はあり得る。だが実際に業務を変えていくには、各事業部門の中に入り込み、現場に常駐する人が必要だという考え方だ。人材の確保についても、外から新たに採用する方法だけでなく、既存社員をこの役割に転換する形でも十分機能するとしている。

AI時代の働き方の不安を解消 エンジニアの新たなキャリア

 レヴィ氏は、この新しい役割が、AI時代の働き方に不安を感じる人たちにとって、新たなキャリアの選択肢にもなると述べている。AIを前向きに使いこなしたい若い人材にとっては、格好の入り口になる。さらに、将来エンジニアの仕事がどう変わるのかを不安視する声に対しても、このキャリアパスはひとつの明確な答えになるという。

 企業がAIエージェントを試験導入の段階から、本格運用の段階へ移し始めている今、問われているのは「誰がそれを現場で動かすのか」ということだ。レヴィ氏の提案は、その担い手として新しい職種が必要になることをはっきり示している。

photo AIエージェントを本格運用の段階へ移し始めている今、問われているのは「誰がそれを現場で動かすのか」だ

本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AIエージェント時代の新しい仕事」(2026年4月14日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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