第2次トランプ政権が始まった2025年以来、米国の抑止力が弱まったことによる変化は特に大きい。ロシアによる領土奪還という地政学むき出しの野望が生んだウクライナ侵攻は泥沼化し、その後も各地で大きな紛争が常態化した。いまや国境は可変のものだ。保護主義とともに関税が復活し、経済合理性よりも経済安全保障が優先される時代となった。
世界はもはやフラットではない。米国の保護に寄りかかれなくなった国々は、自国の置かれる地理的条件という動かしがたい前提を、正面から受け入れなければならない。
日本も例外ではない。心情的には米国のお膝元でも、地理的には中国のほうがよっぽど近い。北朝鮮やロシアとも近接する位置にあり、控えめに言っても厄介な“かいわい”だ。島国であるため、エネルギーの輸入は陸路が使えず、全て海路に依存する。こうした地理的条件を直視したうえで、防衛や同盟の在り方を考える必要がある。
世界の枠組みが大きく変わるとき、それは政治家や外交の専門家だけの問題ではない。ビジネスも対応を迫られる。
経営の仕事とは、突き詰めれば「世の中の大局」と「自社の本質」を掛け合わせて、打つ手を決めることだ。この掛け算の第1項となる「大局」を読むためには、世界の拮抗(きっこう)する勢力と潮流を正しく捉えることが最低限必要だ。
世の中が平穏だったり、ゆっくり一方向に動いていたりするときは、大局を読みやすい。しかし、私たちのキャリアが始まった1990〜2000年代に比べて、変化の振れ幅は大きくなるばかりだ。アンチ・グローバリゼーションの現代において、地政学が必要なゆえんである。
このため、地政学リスクの専門部署を設ける大企業が増えている。私が2026年3月まで身を置いたコンサルティングの現場でも、地政学リスク対応のプロジェクト需要が2020年代に急増した。
しかし正直なところ、大手であっても、日本企業の地政学リスク対応の成熟度はまだ低い。専門部署を設けても、ミッション設定が曖昧なままでは、世にあるニュースをまとめて経営に報告するだけの「情報アグリゲーター」に終わってしまう。
自社の戦略に死角はないか。世界の枠組みが変わったとき、今の事業ポートフォリオは耐えられるか。大きな有事が起きたとき、本社と現地は同じシナリオで動けるか――こうした問いに答えることこそが、専門部署の本来のミッションだ。そして、そのアウトプットが社内の意思決定にどう組み込まれているかも問われる。宙に浮いたような組織では、インパクトの出しようがない。
経営者は戦国武将のように「国盗り」をミッションとするわけではない。しかし、地政学的な視点で国家の姿勢と世界の潮流を読むことは、いまや経営者の基本スキルになりつつある。その読みを自社の地理的・事業的ポートフォリオに重ね、戦略的なリソース配分を考え、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化といった作戦を練る。そんな時代が、すでに始まっている。あなたの会社の戦略に、地政学の視点は組み込まれているだろうか。
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