freeeはなぜ「AIに選ばれるSaaS」を目指すのか 会計ソフトの常識を変える戦略(2/4 ページ)

» 2026年06月25日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

freeeのAIエージェント

 ところが、である。freeeはその逆を行く。

 CAIOで共同創業者の横路隆氏が掲げた「Done by You(自分でがんばる)からDone for You(やっといてくれる)へ」。最重要キーワード「D4U」の主語は、もはや人間ではない。AIにとって使いやすいことこそ最高の顧客体験だ、という考え方は、自社の画面を主役の座から降ろすことに等しい。会計ソフトが、人間に操作してもらうための場所であることをやめ、AIに呼ばれる裏方になりにいく。

月次決算は従来の30営業日からfreeeで10営業日、そしてDone for Youでは「即時」へ。横路CAIOは「AIに業務を全て任せて、最後に人に残るものは何か。それは責任です」と述べ、説明責任を負える仕組みの重要性を強調した
横路CAIOは、これまでのfreeeを振り返り「人にツールを渡して使ってもらう前提では、最後の"使いこなし"のハードルをどうしても突破できなかった。歯がゆい思いをしてきた」と述べた。AIがその壁を壊す、というのがDone for Youの主張だ

 これは、SaaSにとって居心地のいい話ではない。人間がログインしなくなれば、UIの磨き込みは価値を失い、課金単位だった「使う人の数」も数えにくくなる。それでもfreeeが裏方に回るのは、会計という持ち場がただのデータ置き場ではないと踏むからだ。

 示されたD4Uテクノロジーの要件は、コスト(一業務当たり数百〜数千円)、精度、説明責任、実行の4つ。業務を最後まで完遂し、証跡も残る。要するに「業務を丸ごと任せられる下請け」の仕様書である。

 今回、freeeが示したAI活用の見取り図は3層だ。自社で自由にエージェントを構築する「freee-mcp」、個社固有の業務に合わせて開発を請け負う「freee カスタムオーダー」、用意されたものをノーコードで使い、自分でも作れる「freee AIアシスタント」。

横路隆CAIOはMCPを「AIがツールを使うための共通規格。APIを叩くためのUSB端子のようなもの」と説明した。すでに、税理士が「スタッフ0人で60顧問先を担当し、寝ている間に全ての記帳が終わる」といった使い方も現れているという

 外部のClaudeやChatGPT、Geminiといった汎用AIモデルをfreeeの機能につなぐ共通インターフェースがmcpで、その上に個別開発とノーコードの層が積み上がる。ただしmcpのOSS版は3月にすでに公開されており、6月16日に新たに加わったのは、開発を請け負うカスタムオーダーと、出来合いを使わせるAIアシスタントの2つだった。接続基盤を提供するだけでなく、その上のアプリケーション層まで自社で担うことになった。

 狙いは、AIに会計実務を最後まで任せるための「ハーネス」を整えることである。ハーネスとは、賢くても現場を知らないAIに、使える道具と手順、踏み外さないための制約、そして後から検証できる証跡を与え、実務を最後まで遂行させるための仕組みを指す。

 強力だが粗削りなモデルを、会計実務という現場でAIを適切に制御するための馬具と言ってもいい。先に示したD4Uの要件、すなわちコスト、精度、説明責任、実行は、そのままこのハーネスに課される性能だ。

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