売り上げは過去最高なのに、株価は下がる。2026年に入ってからSaaS大手に起きたのは、おおむねこの流れである。米Salesforce、米Snowflake、米ServiceNow、いずれも四半期の売り上げは過去最高水準に達した。事業が縮小したわけではない。
普通なら、過去最高の売り上げを出した企業の株は買われる。それでも株は売られ、そこに「SaaS is Dead」という見出しがついた。
この流れに対する違和感を言語化していたのが、HRBrainの常務執行役員CSaO(Chief Sales Officer)小山径氏だった。
HRBrainは創業10年のHRテックである。社員の評価・配置や離職の予兆といった人材データを束ねるタレントマネジメントを手掛ける他、データ入力の代行まで引き受けるBPaaS(業務代行のサービス化)にも投資している。
2026年4月で12期目に入り、累計導入社数は2026年1月時点で4000社を超えた。ARR(年間経常収益)は開示しておらず、先行する数社を追いかける挑戦者だ。小山氏も「まだキャッチアップが必要な競合はいる」と認める。
小山氏には、SalesforceというSaaSの総本山での約19年のキャリアがある。そんな同氏が「SaaSは死んでいない」と主張する。ポジショントークと切り捨てる前に、中身を聞く価値はある。
小山氏がLinkedInに投稿した内容(一部抜粋)は、以下の通りである(太字強調は筆者によるもの)。
SaaS is not dead. Low-growth models are simply being weeded out by the market.AI startups are growing faster for a very straightforward reason. They are not just targeting software budgets — they are going after labor costs, which are exponentially larger in most companies.
意訳すれば、死んだのはSaaSではない。「低成長モデル」が市場から淘汰(とうた)されているだけだ。そしてAI企業の成長が速いのは、技術が魔法のように優れているからではなく、狙っている予算の費目が違うからである。SaaSがIT予算を取りに行くのに対し、新興AIは人件費・採用費という、桁の違う財布を取りに行っている。
小山氏は取材でも、ほぼ同じことを話した。「業務を効率化するITツールであるSaaSの費目はIT投資。一方、新興AIの費目はまず人件費、そして採用費だ」(小山氏)
投資家はSaaSが悪くなったと見ているのではない。「業績が落ちているわけではなく、SaaS大手は最高収益を上げている。ただ、AI企業と比べると成長が鈍化して見える。そのため、投資家は従来のSaaS企業に、これまでのようなバリュエーション(投資家による企業価値の値付け)はしない」と小山氏は言う。
むろん各社の株価には、通期見通しや利益率、個別案件の遅れといった固有の事情もある。小山氏自身、株価下落を「それも一部ある」と前置きした上で「より大きいのは投資家マネーのAIへの移動だ」と整理した。SaaS企業のバリュエーションは、AI勢の成長率を前に見劣りした瞬間、従来の水準では許されなくなる。「SaaS is Dead」という言葉が本質的に意味しているのは、突き詰めればこの相対評価である。
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