SARABiO温泉微生物研究所はこれまで、一つの研究成果を異なる産業へと応用し、成長してきた。根底にあるのは、RG92という1つの素材だけ。用途ごとに全く新しい素材を開発するのではなく、共通するメカニズムを生かしながら、水産、畜産へと横展開していく。開発リスクを抑えながら、新たな市場を開拓できるのが強みだ。
もっとも、この戦略を形にするまでの道のりは平坦ではなかった。
研究開発には時間も資金もかかる。事業として成り立たせるためには、成果を早く出す必要があるが、人を対象にした臨床試験は何年もかかる。その点、畜産や水産は出荷サイクルの中で短ければ40日ほどで結果が見える。
畜産・水産に賭(か)けるため、同社は一時10億円を超えていた売上高を、あえて約6億円規模にまで縮小させた。化粧品事業における新規開拓を減らし、既存事業で生み出した資金を畜産・水産分野の実証試験へ集中的に投じたのである。
その投資が実を結び、さまざまな業界で成果が出始めた2024年、同社は畜産・水産事業を「ONSOH(オンソウ)」(大分県別府市)として分社化した。
化粧品会社と畜産事業を同じ会社で展開していると、外部から事業の実態が見えにくい。人向けを担うSARABiOと、畜産・水産を担うONSOHに役割を分けることで、事業構造を明確にした。
ONSOHの2025年の売上高は6200万円と、事業はまだ立ち上がりの段階にある。一方で、現場で実証試験を重ねたことで、RG92は「導入すれば収益改善につながる素材」として現場で評価され始めている。同社は2026年の売上高を1億1000万円、海外展開を本格化させる2030年には51億7000万円を計画している。
現在は国内大手の飼料メーカーに加え、世界的な製薬企業の動物部門とも共同研究や商談を進めている。現在の売上構成比は国内8割、海外2割だが、海外案件は1件当たり1700万円規模に及び、魚では500万匹単位で実証が進むケースもあるという。インドに加え、中東や欧州、南米、東南アジアでも商談が進んでおり、濱田氏は「火が付けば、売上構成比は一気に変わると思います」と期待を寄せる。
そして今、SARABiO温泉微生物研究所は再び原点へ戻ろうとしている。
もともとRG92は、人の健康を目的とした研究から生まれた素材だ。現在は、超高齢化社会の日本が抱える課題「健康寿命の延伸」をテーマに掲げ、2022年に国立長寿医療研究センターと共同研究を開始した。加えて、東京大学とはアルツハイマー病、金沢大学とはゲノム解析の共同研究も進めている。
腸内環境へのアプローチは、アレルギーや自己免疫疾患(免疫システムが誤作動を起こし、自分自身の健康な細胞や組織を異物とみなして攻撃してしまう病気の総称)など免疫機能との関わりも期待されている。
「私たちの研究は、別府の温泉から始まりました。しかし今、対峙しているのは、世界の食料インフラ、そして人類の未来です」(濱田氏)
17年間、1つの素材を磨き続け、その価値を異なる市場へ広げていく。SARABiOの歩みは、技術そのものだけでなく、「一つのコア技術をどう社会実装し、事業へ育てるか」という地方発イノベーションの一つのモデルを示している。
なか卯の「床に置かれた食器」問題 企業の沈黙が呼ぶ“将来の波紋”
中小企業は「消去法」で50代を採用する 早期退職の前に知るべき現実
倒産寸前なのに年収100万円アップ 売上38億円のV字回復を実現した、山梨のプリント企業の「決断と狙い」
病院内のカフェ、なぜ「タリーズ」が多い? 100店舗展開を支える運営戦略
退職一時金を「廃止」する会社は増えるのか 優秀人材が逃げる給与シフトの成否Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング