イーロン・マスク「2036年、お金は要らなくなる」は本当か? 人間が労働から解放される説を歴史から考える古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/4 ページ)

» 2026年07月30日 10時17分 公開
[古田拓也ITmedia]

「働かなくて良くなる」も、繰り返し予言されてきた

 「お金が意味を持たない」という予言は、「お金を稼ぐための労働も不要になる」ということを意味している。

 この点に関しても、20世紀を代表する経済学者ジョン・メイナード・ケインズが予言している。

 ケインズ氏は1930年、『わが孫たちの経済的可能性』というエッセイの中で、「100年後には週15時間働けば足りる社会になる」と説いていた。

 現代のAIの普及ぶりを考えると、当時想定されていた生活水準や生産性の向上は、おおむね実現している。

 しかし、実際の労働時間は、ケインズ氏が予想したほどには減っていない。米国の民間部門の週平均労働時間は、2026年4月時点でも34時間台で推移している。

 生活水準や生産性は大きく向上したにもかかわらず、なぜ私たちは今も長い時間働き続けているのか。その理由の一つを説明するのが、経済学者ウィリアム・ボーモルが1960年代に示した「コスト病」の考え方だ。

 コスト病とは「効率化が進んだ業界で給料が上がると、効率化できない業界の給料もそれに引っ張られて高くなる」という現象のことだ。実際2000〜21年の米国では、テレビが97%、玩具が73%値下がりし、衣料はほぼ横ばいだった一方、病院サービスは220%、大学授業料は172%も上昇した。

 ボーモル氏が述べた通り、機械が作れるものは大幅に安くなった一方で、人手を要する財やサービスの価格が跳ね上がった。つまり、豊かになったからといって全ての値段が下がったわけではない。価値の中心が、大量生産できるモノから「希少な人手」へと移っただけだったのだ。

人手を要する財やサービスの価格は跳ね上がった

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR