「融資」現場にAIの足音、資金調達どう変わる? カネを借りられる企業の条件、専修大教授に聞くAIが変える“カネを貸す”条件(2/2 ページ)

» 2026年08月04日 07時00分 公開
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メガバンク、審査業務にAIを積極活用 どう使っている?

 AI技術の進化に合わせて、金融機関における審査業務でのAI利用も増えている。

 「金融機関のAI導入には濃淡がある。メガバンクはAI活用をどんどん進めているが、信用金庫や信用組合などではそこまで進んでいない。しかし『審査業務の一部にAIを入れましょう』と取り組んでいる先進的な信用組合もある。最終的な判断は人間が担うが、AIのコメントを参考にするレベルまでどの金融機関も達しているのではないか」(尾木教授)

 中小企業が提出する、現金収支をまとめた「資金繰り表」の分析にAIを利用している例があるという。資金の動きや過去の決算書から、現在の財務状況やキャッシュフローの予測をAIで立てる。この他、粉飾決算の疑いを検知する用途も、AIが得意とする領域だという。

 尾木教授は「人がやると大変だが、AIはパッと出せる。審査の効率化という意味で、格段に楽になっている」とし、粉飾の可能性が高い案件を丁寧にレビューするなど、メリハリのある審査が可能になるという見解を示す。

 「人間の審査員をサポートするツールとしてAIを活用できる。恐らく、メガバンクは人の仕事をAIに置き換えて、最終的な総合判断だけを人間が担う方向に向かっているのだろう」(尾木教授)

 審査業務におけるAIの活用により、審査の柔軟性が向上していると尾木教授は語る。また、審査の現場では「個人情報の保護」「反社チェック」など審査員に求められる業務が増えており、多忙な中で従来通りの審査を続けるには効率化が欠かせないことも、AI導入の背景にあると尾木教授はみている。

photo みずほフィナンシャルグループが取り組む、中小企業やスタートアップ向けの金融サービスに関する新聞記事(日経新聞電子版「みずほ、AI使い新興開拓 決済・資金管理を一括提供 預金獲得へ競争激しく」(2026年6月23日付))(ぼかし加工は編集部によるもの)

AI審査モデルで解決しなければならない「課題」

 生成AIの活用に期待が高まる一方で、課題もある。尾木教授は「AI審査モデルは妥当な分析をしているが、まだ試験的な利用にすぎない。(AI審査モデルによる審査を)全ての企業に当てはめられるかどうか分からない。学習量が少ないため、データを与えて精度を上げなければならない」と説明する。

 しかし、そのデータが足りない。日本企業が発行する決算書の大半はPDFファイルで、中小企業の中には決算書がデジタル化されていないケースも多い。会計ソフトウェアによる財務データと勘定科目のひも付けも進んでおらず、インターネットバンキングの普及が遅れていることから決済情報のデータ化も道半ばにあると尾木教授は述べる。

 データがあっても「デジタル化されていない中小企業の部分だけデータ量が少ない」「大都市や特定業種の企業データが多い」といった偏りがあると、AI審査モデルの精度に影響してしまうという。

 尾木教授がAI審査モデルを開発した際は、中小企業財務データベースを運営するCRD協会の「中小企業信用リスク情報データベース」を用いた。金融機関や信用保証協会から集めたデータを利用できるため「信用に値するモデル」が作れる。また、全国各地に支店を持つ日本政策金融公庫は、約100万社の顧客を抱えているため、偏りが少ない“日本の縮図”のようなデータを得られるという。

融資審査にAIが使われる時代 中小企業はどう対応すべきか

 融資審査にAIが使われるようになったいま、中小企業やスタートアップはこの変化にどう対応すればよいのか。

 経営に関する情報のデジタル化やデータ化が進み、AI活用と組み合わされば、企業の実態がガラス張りになる。「どんぶり勘定」「過小申告」などは通用しない。逆に言えば、まっとうに取り組んでいる企業が正確なデータを金融機関に提出できれば、AIが「信用できる」と判定し、スピーディーな融資につながるだろう。

 「経営の実態に即した融資が可能になる。『立派な経営者である』と堂々と言える企業は、低金利の融資を素早く受けられるはずだ。リスクが低いと判定された中小企業は、低い金利で借りられるようになる。今回の審査では駄目でも、失敗から学んで信用力を上げればまたチャレンジできる」(尾木教授)

 スタートアップも同様だ。これまで、過去の業績がないスタートアップの将来性を判断するのは難しかった。しかしAIで構造化・非構造化データを分析できれば、創業者の素質や実績、ローンなど信用取引の利用履歴(クレジットヒストリー)などから融資可否を判断できるようになる。尾木教授は「ビジネスチャンスは急に現れる。そのタイミングで資金調達できるかどうかが、スタートアップにとって重要だ。タイムリーに資金を手に入れられれば、ビジネスチャンスを大きくできる」と強調する。

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 同教授は、融資審査におけるAI活用の展開について「使いながら精度を上げていく。完成するまでは人間とAIが協業しながら、人間が最終的に判断を下す体制が4〜5年後に整うのではないか」と見通す。また「最近の生成AIの進化スピードは、私の予想をはるかに超えている。10年後はどうなっているか分からない」と期待をにじませた。

 融資審査におけるAI活用は、もう始まっている。本特集「AIが変える“カネを貸す”条件」では、融資を受けた中小企業やスタートアップを取材。全4回かけて、変わる金融現場の「いま」を浮かび上がらせる。

特集「AIが変える“カネを貸す”条件」

AIやデータの活用により、金融機関の融資や与信判断の在り方が変化し始めている。金融機関はこれまで、財務諸表などの定量データをベースに膨大な時間をかけて審査をしていた。しかし生成AIの普及により審査業務が効率化され、短期間・少額の融資やデータ駆動型のデット調達(ベンチャーデットなど)が広がりつつある。

従来は融資を受けにくかった中小企業やスタートアップが、資金調達しやすい環境が整い始めた。特集では、取材を通じて、AI時代の「カネを貸す条件」について考えていく。

第1回:専修大教授に聞く、AI審査モデルのいま(本記事)

第2回(予定):早大教授に聞く AIが発展するほど「経営者の資質」が問われるワケ

第3回(予定):稲葉納豆工業所の資金調達の裏側

第4回(予定):Zehitomoが引き出したデータ駆動型融資

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