クレジットカード大手のジェーシービー(以下、JCB)と、金融関連サービスを手掛けるマネーフォワードのグループ会社であるマネーフォワードエックスが異例のタッグを組んだ。両社は3月4日、中小企業・個人事業主向けの資金管理・キャッシュフロー改善ポータル「Cashmap(キャッシュマップ)」の提供開始と、金融機関の法人顧客向け新規事業の共創に向けた基本合意契約締結を発表した。
「Cashmap」は複数の銀行口座・クレジットカード情報を一元管理し、入出金予定の可視化から将来のキャッシュフローシミュレーション、さらには資金繰り改善サービスへの接続までをワンストップで提供する。JCB法人カードなどの保有者は無料で利用できるという。
カード会社とフィンテック企業という異色の組み合わせで挑む新サービスは、中小企業の金融環境をどう変えるのか。
2024年に休業・廃業、解散を行った企業は6万9019件、前年から約1万件増加し、2016年以降過去最高を更新した(※)。「コロナ禍でゼロゼロ融資などによって一時的に延命されていた企業が、コロナ明けで顕在化してきている」とJCBの中村謙志法人ソリューション開発部長は分析する。
※:帝国データバンク 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2024年)
かつて経済産業省は高齢経営者の引退による倒産増加を予測していたが、コロナ禍の政府支援策によって先送りされていた問題が今噴出している。背景には人手不足や原材料費高騰があり、「財務・資金繰りの改善」という本来優先度の高い課題にまで手が回らなくなっている。
「短期的な資金を融通するために銀行に行くと、事業計画提出を求められ2〜3週間かかる。その間に本当に(資金が)必要だったのに間に合わないケースが少なくない」と中村氏。建設業の一人親方やフリーランスなど、仕入れが先行し納品後3カ月で入金があるビジネスモデルの事業者にとって、この「3カ月」をどう乗り切るかは死活問題だ。こうした一時的な資金ニーズに対応する新たな金融サービスの必要性から、カード会社とフィンテック企業による協業が実現した。
「Cashmap」の最大の差別化ポイントは、資金管理から資金調達までをワンストップで支援する三位一体のアプローチだ。「まとめる」「見通す」「改善する」という3つの機能を統合し、中小企業経営者の資金繰り課題を包括的に解決する。
「市場には資金管理ツールや融資サービスは単品で存在しているが、それらをシームレスに連携させた仕組みはこれまでなかった」と中村氏。複数の銀行口座や他社カード情報も含めて一元管理し、将来の資金繰りを可視化した上で、その解決策までをワンストップで提案できるのが強みだ。
具体的な操作も直感的で、「請求書を入れると、グラフで将来の資金繰り予測が出てきて、支払いをずらしたい月を選択すればカード払い可能な請求書が表示される。実行するとシミュレーションにもリアルタイムで反映される」(中村氏)。シンプルなUIで、経理や財務の専門知識がなくても、中小企業の経営者が自ら使いこなせる点も特徴だ。
2025年中には オンラインで申し込みから審査、融資までが完結する「オンラインレンディング」の提供を予定している。従来の銀行融資では数週間かかっていた手続きをオンライン完結で大幅に短縮。「Cashmapで銀行口座情報を連携していれば、申し込みだけでスピーディーに融資判断ができる」と中村氏は説明する。特に銀行融資では対応が難しかった500万円以下の小口短期融資に対応することで、資金繰りの「穴」を埋める役割を担う。
さらに差別化となるのがファクタリングサービス(売掛金の売却や未来の売り上げの資金化によって、早期に運転資金を調達するサービス)だ。特にJCB加盟店向けには「将来債権ファクタリング」も計画している。「加盟店の売り上げをベースにしたファクタリングで、事業主の財務状況に関わらず債権に対して前払いできるため、通常のファクタリングよりも幅広い事業者が利用できる」という。
「従来は資金調達の選択肢を検討する段階でも相当な手間がかかっていた」とマネーフォワードエックスの本川大輔社長。Cashmapなら資金状況の可視化から解決策の提案、実行までをシームレスに行えるため、経営者は資金繰りの煩わしさから解放され、本業に集中できるようになると強調する。
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