BIツールが備えていた探索機能は、誰でも使いやすいように「会話型分析」に置き換えた。社員が自然言語で見たいデータを伝えると、AIがSQLコードを生成してデータを抽出する仕組みだ。
BIツールの置き換えを支えたのが「抽出はAI、分析は人」という考え方だ。小林氏は「欲しいデータの取得はAIに任せ、人はその結果を使って十分に時間をかけ、分析と仮説検証に注力すべきだ」と説明する。
もっとも、会話型分析はAIの機能を有効にすればすぐ使えたわけではない。障壁はデータそのものにあった。例えば、既存システムから引き継いだカラム(列)名の「DELVTO_CRP_KBN」は「納品先会社区分」を指す。英語と日本語が混ざった社内の命名規則によるもので、AIには読み取れない。同種のテーブルが2600本積み上がり、時間がたつほど「何のために作ったのか」という文脈が欠落していく。
対策方法は単純だった。テーブルのプロパティにある「説明」の欄に、欠落した文脈をひたすら記述したのである。小林氏は「プロパティに記述する方法であればAIが確実に拾ってくれる。最初は『説明』に何でも書いてしまえばよい」と勧める。データサイエンティスト、アプリ開発者、業務ユーザーなど異なる立場の視点で、Wikipediaの記事を整備するようなイメージで書き込んだ。
同じ要領で個々のカラムにも説明を付け、テーブル間の関係性や質問の前提となる補足情報、検索を安定させる問い合わせの見本も用意した。社内用語にも対応しなければならない。例えば、ニトリ独自の「伝票種別」であれば「レジでの決済」「注文・取り寄せ」「キャンセル」といった各コードの意味まで記述し、その用語をテーブルやカラムにまとめて関連付けた。
説明を整備した成果は、質問の投げ方に表れている。例えば「赤羽店の先週の寝具分類の売上高と売上高前年比を、中分類単位で出して」といった具合だ。ごく普通の依頼に見えるが、店舗名や商品分類体系など、社内でしか通じない言葉が詰まっている。これをAIに投げても適切な答えが返ってくるのは、説明を整備したからだ。
さまざまなデータ分析の切り口がある中で、特に難しいのが「マットレスプロテクターと敷布団の同日併売実績を抽出して」というような質問だ。この分析をするために、人がSQLコードを書こうとすると苦労する。だが、AIならば、BigQueryに最適化したSQLコードを巧みに組み立ててくれる。質問次第では、その場で需要予測のグラフを描く、顧客の声を意味で分類するといった高度な分析も実行できる。
派生的な効果もある。整備した説明は、そのデータが何を示すのかを解説しているため、着任直後のシステム管理者の学習や、開発者による既存環境の調査にも役立てられる。
一連の取り組みのポイントは「データの説明を整備する」という一点に絞られる。小林氏は、そこから3つの効果を挙げる。
3つ目には注意点もある。10年以上使い続けたプログラムが大量にある環境では、それらを壊さない改修が求められる。AIによるソースコードの自動生成にも、データ構造の理解が欠かせない。そこでニトリHDは「システムがレガシー化しない環境」を目指して、新たな取り組みを進めるという。
講演の締めくくりで小林氏は「やったことは、データの説明を作文したことだけ。IT技術を持つ限られた人にしかできないことではない」と強調した。全社のデータを網羅する必要はなく、重要度の高い上位5つ程度でも効果は確認できるとして、データ分析に取り組もうとする企業にエールを送った。
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