「お、ねだん以上。」の品質と価格を両立してきた、家具・インテリア大手のニトリホールディングス(以下、ニトリHD)。その背景には、商品企画から原材料調達、製造、物流、販売までを自社で一貫して手掛ける独自のビジネスモデルがある。
同社は自らを「製造物流IT小売業」と定義し、ITやデータの活用に注力。5カ年計画でデータ分析基盤を整備してきた。いまや分析用の主要なテーブル(データを収めた表)だけで2600本を超えるという。
システム部門以外もデータを分析できるように、AIを活用して「対話型分析」機能を実装。「商品XXXXの販売数量実績を前年比で出して」と投げかけるだけで、データやグラフを出力できるまでになった。
ここまでくるのは簡単ではなかった――。当初は、データが増えすぎて誰も全容を把握できず、扱えるのは一部の人だけという状況に。加えて、AI導入に当たっては、ニトリHDの社内用語が分析の壁になるという課題に直面した。これらを解決できた裏には、同社の情報システム改革室による“地道な作業”があった。その経緯を、同社の小林桂氏(情報システム改革室)が明かした。
本記事は、グーグル・クラウド・ジャパンが主催したイベント「Google Cloud Next Tokyo」(7月30〜31日開催)の講演セッションから「ニトリが実践するBigQuery分析基盤構築とデータエージェントの最新活用」を取材したもの。
ニトリHDがデータ分析基盤の検討を始めたのは、2021年。自社内で運用してきたデータ分析基盤をクラウドサービスの「Google Cloud」へ移行し、米Googleが提供するデータ分析基盤「BigQuery」にデータを集約してきた。
BigQueryを使うことで、顧客の行動データや、オンラインとオフラインの顧客接点の関連性など、これまで分析したくてもできなかったデータを取り込む狙いがある。これらのデータを1つの基盤で扱えれば、分析の精度も作業効率も向上させられる。
狙いは効率化にとどまらない。データから導いたインサイトを生かして「在庫過剰」のような無駄をなくし、適切な量を作って運ぶことで、CO2排出量を削減できる。
さらに同社が目指すのは「なぜ」の把握だ。「何が売れているか」はデータを見ればすぐに分かるが「なぜその数字が出たのか」は購入履歴や購入プロセスを分析しなければ見えてこない。「なぜ」を知るために新たなデータ分析基盤が必要だった。
BigQueryを使ったデータ分析基盤は、2022年後半に稼働を開始した。並行して全社的な教育制度も整備。オンプレミス環境からの移行によって容量制限と管理の手間がなくなり、使い勝手がよくなったことから分析用の主要なテーブル(データを収めた表)だけで2600本を超えた。システム部門以外にも分析環境を開放できた。
一方で課題も残った。一つはコストだ。BigQueryの料金体系は、処理量に応じた従量課金モデルだ。ニトリHDは、移行した既存のBIツールが裏で余計な問い合わせを繰り返し、費用を押し上げていた。
もう一つが「認知の限界」だ。小林氏は「データ分析ができる環境を提供できても、使いこなせるかどうかは別問題」と述べ、使いこなせる人だけが恩恵を受ける構図を助長してしまっていると指摘した。
コストと認知の問題をどのように解決するのか。同社は、1つのBIツールが性質の異なる2つの用途――「定型のデータ表を見るだけの用途」と「レポートを作る用途」で使われている点に注目した。後者の用途は、作成用ライセンスが高額のため各店舗の全社員に配ることが難しい上、操作スキルやデータベースを操作する言語「SQL」を理解するハードルも高かった。
そこでニトリは、BIツールを「参照機能」と「探索機能」に分離した。参照機能は、AIのコードアシストで必要な機能だけを薄く内製することにした。その結果「BIツール製品で調整しながら表を作り上げるのと、ほぼ差がないくらいのローンチはできている」(小林氏)という。
「今変わらなければ」 酒屋カクヤス、背水の陣で挑む業態転換 鍵を握る「30年来の基幹システム」刷新の行方
通販アスクル、サイバー攻撃後108日間の記録 社長が明かす「事業ゼロリセット」からの復活劇
「ねこ」検索で「手押し一輪車」表示――モノタロウが守った、生成AIに“譲れない”購買体験
「待ちの営業」はもう限界 ホンダがAIエージェントで挑む、商機を逃さない「濃い商談」の創出
かんぽ生命、AIで営業支援 “郵便局での一言”拾って保険提案へ 寸劇で分かる活用例Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング