心理的安全性の議論でよく見られるのが、「仲が良い職場のことだ」という誤解だ。
冒頭に紹介した、無知だと思われる不安、無能だと思われる不安、ネガティブだと思われる不安、邪魔者だと思われる不安が起きる職場は、必ずしも雰囲気が悪いとは限らない。歓送迎会もあれば、休憩室での雑談もある。
問題なのは「言いたいときに言えない」ことだ。エドモンドソンは、心理的安全性を「対人リスクを取っても安全だと感じられる、チームで共有された信念」と定義している。つまり、「居心地が良いこと」よりも、間違いを認める、異論を唱えるといった、「対人関係上のリスク」を安心して取れるのが心理的安全性の高いチームなのである。
これは「上司との信頼関係」とも異なる。「信頼」は自分から弱さをさらす意思にすぎない。一方で心理的安全性は、「自分がリスクを取って発言しても、好意的に受け止めてくれるだろう」という期待であるためだ。
そのため、上司を信頼していたとしても、会議で異論を言えば周囲から浮く、失敗を報告すれば評価が下がると感じていれば、そのチームは心理的安全性が高いとは言えないのである。
HRビジョン(東京都港区)がまとめた『日本の人事部 人事白書2025』で、自社の心理的安全性を「高い」と答えた企業は5割を超えた。ただ、これは企業側の回答による自己評価であり、現場の一人ひとりの心理的安全性を測ったものではない。
心理的安全性を見る際に注意したいのが、「平均値」だけでは現場の実態が見えづらいことだ。心理的安全性はチーム単位で成立するものであり、同じ会社でも部署や立場によって感じ方は異なる。また、同じチームの中でも人によって感じ方にはばらつきがある。
例えば、管理職と一般社員、正社員と非正規社員など、さまざまな役職や立場の人が混在するチームで数値を平均化すると、一部の人の心理的安全性が低くても、全体としては問題なく見えてしまう可能性がある。
そのため、心理的安全性を測る際には、部署や職位、雇用形態などに分けて、「誰が低いのか」を見る必要がある。
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