フードデリバリー撤退クロニクル 市場拡大でも8社が退場、なぜ? 「Uber Eats一強」の後に残るもの古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2026年08月31日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

実は名前がある「市場は伸びるのに退場が続く現象」

 需要が伸びているのに事業者が次々に消える。一見すると不合理なこの現象は、経営学や産業組織論では珍しいものではない。「シェイクアウト」と呼ばれる、産業におけるライフサイクルの局面として整理できる。

 新しい市場が立ち上がると、有望さを見いだした企業が一斉に参入する。企業数が過剰に膨らんだ後、生産量は伸び続けているのに企業数だけが急減する。この非対称な動きはフードデリバリー以外の業界でも観察されてきた。

 古典的な事例が米国のタイヤ産業だ。1917〜1922年のわずか5年間で249社が新規参入し、企業数は1922年に278社でピークを迎えた。そこから企業数は減り続け、1930年代後半には約30社で落ち着いた(金容度「戦前の米国タイヤ産業の歴史」)。生産量が堅調に伸び続ける中で、企業数だけが15年ほどで9割近く減った計算になる。

 自動車産業でも、家電でも半導体メモリでも、需要の高まりに伴う新規参入が競争激化を引き起こす現象が繰り返されているのだ。

 日本のフードデリバリーは、この教科書的な形をそのままなぞっている。コロナ禍特需が参入の号砲になり、企業数が膨らみ、市場が伸びるその裏側で退場が起きた。

 注意すべきは、シェイクアウトが「効率の悪い会社が退場する過程」を指すとは限らないことだろう。例えば、過剰参入によって配達員の調達コストが高騰したり、広告にかけるための費用が高止まりしたりすると、それまで成立していた採算が成立しなくなる。

フードデリバリービジネスの残酷な性質

 では、フードデリバリービジネスの新規参入者が生き残れなかったのはなぜか。そこには、デリバリーというビジネスの性質に理由がある。

 そもそも、フードデリバリービジネスに技術的な参入障壁はほとんどない。アプリで注文を受け、配達員に割り振り、店舗から運ぶ。差別化の手段は「価格を下げる」「品質を高める」「独自の割引を作る」のいずれかに収束するが、そのどれもが模倣可能である。

 著名な経済学者のマイケル・ポーター氏は、各社が同じ「ベストプラクティス」を模倣し合った結果として競争が同質化していく現象を「競争の収れん」と呼び、そうなった産業では競争が価格競争に堕し、業界全体の収益性が損なわれると指摘した

 価格勝負になったとき、勝敗を決めるのは効率ではなく資金量である。

 資金の厚みでいえば、米Uberに勝てる挑戦者はほとんどいない。挑戦者が新しいセールスポイントを打ち出す。話題になる。Uberが同じことを、より広い加盟店網でやる。

 そうすると差別化を失った挑戦者は、赤字を垂れ流したまま体力を削られる――これが6年間繰り返されてきたのだ。

配達料もサービス料もゼロ ロケットナウという「黒船」

 2025年1月、東京都港区で「ロケットナウ」が始動した。運営は韓国Coupang(クーパン)の完全子会社、CP One Japanだ。

 打ち出しは強烈だった。利用者側は配達料・サービス料の負担がゼロで、商品価格は店頭と同額という設計である。加盟店に対しても初期費用0円・月額0円を掲げ、新規加盟店には3カ月の手数料を0%とするキャンペーンを打った。

 フードデリバリーの弱点は手数料と送料によるダブルパンチで、商品価格が店頭価格よりも割高になることだった。ロケットナウはそこを正面からつぶした。

photo ロケットナウのキャンペーン(出所:2025年8月のプレスリリース

 しかし、2026年3月1日には、出前館が商品代金を店頭と同額にする「お店価格で出前館」と送料無料の対象店舗を全国へ本格展開した。対象店舗は4月に1万5000店を突破し、6月には2万1000店に達している。

 そして3月20日には、Uber Eats Japan(東京都港区)がアプリ上の商品価格を店頭と同じにする取り組みを開始した。発表時点で約1万8000の加盟店が参加していた。

 ロケットナウの武器は、参入からわずか1年程度で模倣された。

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