「○○さんに聞けば分かる」をAIに 日立建機がベテランの知恵を共有したワケ:AIエージェント組織実装の最適解(1/8 ページ)

» 2026年09月28日 08時00分 公開

この記事は、書籍AIエージェント組織実装の最適解』(園田亜斗夢、川俣彰広/クロスメディア・パブリッシング)に、編集を加えて転載したものです。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。


『AIエージェント組織実装の最適解』(園田亜斗夢、川俣彰広/クロスメディア・パブリッシング)

 生成AIの活用というと、全社を巻き込んだ大規模な業務改革をイメージしがちです。しかし、必ずしも最初から大きな仕組みを作る必要はありません。まずは、特定の部門が抱える身近な課題を解決することから、AI活用が広がっていくケースもあります。

 建設機械メーカー・日立建機は、「一部門での深い業務変革」の事例です。

 ここでのポイントは、ベテラン社員一人ひとりが経験のなかで培ってきた判断基準、いわゆる暗黙知を形式知化する手法です。AIを活用して暗黙知を組織の財産に変え、若手社員のサポート品質を底上げした日立建機の取り組みを深掘りしていきます。

「宝の山」と言える情報資産を活用できていない

 AI活用の舞台となるのは、日立建機のコンストラクションビジネスユニットサービス統括部テクニカルサポート部です。世界中の顧客や販売代理店に対し、建設機械の操作・メンテナンス・修理に関する技術サポートを提供する部署です。

 このテクニカルサポート部では「世界の日立ユーザーにずっと満足していただく」をミッションに掲げています。機械の故障による停止時間(ダウンタイム)を最小限に抑え、迅速で質の高いサポートを届けることが、全世界で同社の建設機械を導入する顧客の満足度に直結するからです。

 テクニカルサポート部の主要業務のひとつに、「FIR(Field Information Report)」を介した問い合わせ対応があります。FIRとは、世界中の代理店のサービス担当者や整備士が、機械情報や現象、問い合わせ内容などを記入して起票するレポートシステムです。技術的な問い合わせだけでなく、不具合情報の共有などの用途にも活用されています。

 日立建機の技術サポートは、「代理店・地域統括会社・テクニカルサポート部」の3層構造になっています。世界中で建設機械の販売・サービスを担う代理店が、エンドユーザーである顧客からの問い合わせを受け、そこで解決できない案件はFIRシステムを通じて各地域の地域統括会社へ渡ります。

 さらに、そこでも解決できない案件が最終的に日本のテクニカルサポート部へと引き継がれます。問い合わせは、内容によって社内の品質保証部門や設計部門とも連携して対応します。その数は全世界で年間約4万件にものぼります。

 FIRシステムには、約20年分にわたるアフターサポートの膨大な事例が蓄積されています。世界中の代理店、地域統括会社、そして、日立建機の各部門をつなぐ同社の重要な情報基盤です。

 ところが、同社ではこの「宝の山」とも言える情報資産がうまく生かしきれていませんでした。それどころか、問い合わせ対応は部署にとって大きな負担になっており、担当者によっては1日の3〜5割、経験の浅い若手社員にいたっては8割もの時間を問い合わせ対応に費やすこともあったと言います。

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