「○○さんに聞けば分かる」をAIに 日立建機がベテランの知恵を共有したワケ:AIエージェント組織実装の最適解(4/8 ページ)

» 2026年09月28日 08時00分 公開

小さな成功体験の積み重ねが「点」から「線」へ広がりを生んだ

部内30人から始めた地道な普及

 AIアシスタントを作ったあと、齋藤氏は地に足のついた普及活動を展開します。テクニカルサポート部内約 人のメンバーにAIアシスタントを使ってもらい、勉強会で使い方を伝えていきました。

 「メンバーからのフィードバックをもらい、改善を重ね、結果を出す。この地道なサイクルをずっと回してきました。小さな成功体験をひとつずつ積み重ねていくのがコツなんです」(齋藤氏)

 このサイクルが回り始めると、変化は「過去事例を探す」の外側にも及びました。関連マニュアルの検索、部内に埋もれたメールの検索、回答ドラフトの作成と、隣接する工程が次々とAIアシスタント化されていきます。

 「最初から完璧なフローを設計して効率化を図るというのが、一般的なパターンだと思います。でも、私たちは、目の前の『点』の業務の効率化をひとつずつ図っていきました。その結果、プロセス全体が整理され、『線』の効率化につながったんです。いま振り返ると、逆説的なアプローチだったと思います」(齋藤氏)

(出典:ゲッティイメージズ)

議事録作成アシスタントが部門を越えてAI への関心を広げた

 この取り組みが社内に知られると、「自分たちの部署でもやってみたい」という声が他部署から届くようになります。号令ではなく、聞いた人が自分の業務に引き寄せて動き始めたのです。

 その広がりを決定づけたのが、会議の議事録でした。部署も職種も関係なく誰もが抱える業務であり、精度を重んじる文化のなかで、作成にも確認にも時間がかかっていました。

 齋藤氏はここに目をつけ、社内会議用の議事録作成アシスタントを作って、実際の会議で使ってみせます。こだわったのは、単に議事録を自動作成させることではありません。

 「業務ごとに異なる実際の会議スタイルに沿って、議事録には何がどのような粒度とニュアンスで記載されることが望ましいのか」

 この視点から会議のあるべき姿を数行のプロンプトに書き込んだのです。会議が終わったその場で、要点の整った議事録が共有されると、参加者の驚きは二重でした。「なんでこんなに早いのか」という速さと、「きれいにまとまっている」という質。そして、必ず「この議事録、どうやって作ったの?」と聞かれます。専門知識の説明ではなく、目の前で起きた体験が、AI活用の心理的ハードルを下げたのです。

 齋藤氏とともに、社内のAI活用推進事務局として全社への広がりを見てきた、日立建機のアフターサービスソリューション「ConSite」のAI開発推進を担っている家村美代子氏は、このときの反応を次のように振り返ります。

 「『この議事録、どうやって作ったの?』『AIアシスタントを使ったんだよ』という会話から、問い合わせが大きく増えました。FIRでの事例展開と議事録作成アシスタントの紹介が重なった時期でもあり、そこからAI活用が急激に伸びました」

 問い合わせは「使いたい」で終わりません。「自分の会議ではこうして欲しい」というリクエストがAI活用推進事務局に集まり、それに応え続けた結果、多くの部署が使いやすい議事録作成アシスタントに落ち着きました。

 使う人の声が設計を鍛え、鍛えられた設計がさらに使う人を増やす。とりわけ若手社員はAIへの抵抗が少なく、便利だと感じれば周囲に自然と広めていきます。以前は新しいやり方への抵抗もありましたが、いまでは「あれ使ったら?」と社員同士が勧め合うようになりました。

 議事録作成アシスタントがAIそのものへの関心を広げ、FIR検索アシスタントが本丸の業務改善を進める。この2つが両輪となって口コミの連鎖により、AIはアフターサポート関連部門から他事業部へと着実に広がっていきました。

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