チップ1枚に3カ月!? 「クリーンルーム」はどんな部屋? 意外と知らない「半導体の作り方」:『図解で深掘る きちんとわかる 半導体』(1/2 ページ)

» 2026年09月28日 08時00分 公開
[ずーぼ,ITmedia]

この記事は『図解で深掘る きちんとわかる 半導体』(ずーぽ著、SBクリエイティブ)に掲載された内容に、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


『図解で深掘る きちんとわかる 半導体』

 半導体の基礎から製造の仕組み、業界を支える企業同士のつながりまで、テキストと図版で体系的に解説。NVIDIAがけん引するAI向け半導体の進化や、日本の半導体産業の動き、業界動向やトレンドも紹介する。


小さな「半導体チップ」が出来上がるまでの“長い旅”

 現代の半導体産業は、単一の企業や国家で完結することのない、極めて複雑かつ緻密なグローバル・サプライチェーンの上に成り立っています。

 1つの半導体が完成するまでには、長期にわたる開発、設計期間、数百から数千もの製造工程と数カ月に及ぶ時間を要し、そして数多くの企業が関与します。このサプライチェーンの構造を理解することは、現代の地政学リスクの本質や、各企業の強みがどこに存在するのかを把握することに直結します。

 半導体の製造プロセスは、大きく分けて設計・前工程・後工程の3つの段階で構成されています。まず設計工程では、EDA(Electronic Design Automation)と呼ばれる専用ソフトを使い、コンピュータ上で緻密な回路図を作成します。この回路図は半導体の材料となるシリコンの円盤状の薄い板である「ウエハー」の上に、膨大な数のトランジスタをいかに効率よく配置するかを計画するものです。

 次に、その設計図を基に実際の製造へと移ります。この工程が最も大量の資金や設備が必要になる技術的な難易度が高い領域です。ナノメートル(nm)という、肉眼では決して見えないウイルスよりも小さな世界でウエハー上に電子回路を形成する前工程が行われます。

 その後、完成したウエハーをチップごとに切り分け、外部と電気的に接続できる形態に組み立てる後工程を経て、ようやく1つの製品が完成するのです。

photo ウエハーのイメージ(画像:ゲッティイメージズ)

 こうした一連のフローにおいて特筆すべきは、それぞれの工程が高度に専門化されており、一社あるいは一国で完結させることが現代ではほぼ不可能になっている点です。これは水平分業型と呼ばれるビジネスモデルであり、かつては垂直統合型として1社が全工程を担うのが一般的でした。

 しかし、技術の高度化と投資額の巨額化に伴い、現在は設計のみを行う「ファブレス」、製造のみを請け負う「ファウンドリ」や「OSAT」(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)のように役割が細分化されています。

 半導体産業は高度な分業体制によって進化を遂げましたが、特定の地域・企業への依存という脆弱(ぜいじゃく)性も抱えています。ひとたび供給網が分断されれば、あらゆる産業が停滞を余儀なくされるからです。

 半導体は現代製品の必須部品であり、その供給網を把握することは、もはや単なる知識の習得ではありません。自社の事業を停滞させないための、全てのビジネスパーソンに必須のリスク管理なのです。

基礎から分かる「半導体の作り方」

 あらゆる電子機器に搭載される半導体は、現代社会における製品やサービスの付加価値を決定付ける存在です。製品の競争力や優位性は、半導体の性能、すなわち設計の優劣に直結します。

設計工程:Appleが自社設計にこだわる理由

 数センチ四方のチップ上に数十億以上ものトランジスタを配置する設計工程は、高度な専門性が求められます。設計の第一歩は、市場ニーズを具体的な技術要件へと落とし込む仕様策定とアーキテクチャ設計です。

 この設計段階では処理速度や消費電力、製造コストのバランスを最適化することが極めて重要です。なぜなら、一般的に処理速度を上げようとすると消費電力が増えたり、製造コストが上昇したりするからです。これらはトレードオフの関係にあるため、その中で最善の落とし所を見つけ出すことが設計の要です。

 米Appleや米Teslaといった企業が自社で半導体設計を行う理由は、まさにこの仕様策定やアーキテクチャ設計といった最上流工程から自ら手掛けることで、他社には決してまねできない独自のユーザー体験を定義するためです。

 仕様が決まると、次は論理設計の工程に進みます。チップがどの手順でデータを処理するかという論理を組み立てる作業です。これは専用の言語を用いてプログラミングのように行われます。

 こうして組み上げた設計データが、意図通りに正しく動くかをチェックするのが検証の工程です。設計ミスであるバグがあると、後からの修正には多大なコストと時間がかかり、大きな損失を招きます。そのため、全体の工数の半分以上がこの検証作業に費やされます。コンピュータ上で膨大なシミュレーションを繰り返し、ミスを徹底的に排除することが、設計で最も大きな比重を占めています。

 論理的な正しさが証明された後は、実際のウエハー上に回路を配置するレイアウト設計です。何十キロにも及ぶ配線を、電気信号の遅延や熱の発生を考慮しながら最適化していきます。このレイアウトが緻密であるほど、チップの処理速度や省エネ性能が向上します。

 こうした数多くのプロセスを経て、製造の根幹となる設計データが完成します。そのデータから回路パターンの原版フォトマスクが作成され、前工程でウエハー上に回路図が転写されることになります。

 この設計工程において極めて重要な役割を果たすのが、設計用ソフトウェアEDAと、再利用可能な設計資産である「IP」です。これらを高度に駆使することが、現代の複雑な半導体設計を支える土台となっています。

photo 半導体の設計プロセス(出所:『図解で深掘る きちんとわかる 半導体』)
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