職場に役職定年制度があるかどうかにかかわらず、個人が50代後半というキャリアの転換期を迎える前に考えておきたいことも整理しておこう。
パーソル総合研究所は、正社員として20年以上勤務した人の60代以降の働き方について調査している(「『正社員として20年以上勤務した60代』の就労実態調査」)。
それによると、60代の従業員が職場から期待されていると感じている内容は「担当者としてのパフォーマンスの発揮」と「高い専門性の発揮」の回答が、60代の前半・後半、雇用形態によらず相対的に多い。
しかし、最も高い60代後半の「継続勤務している人」(55歳時点で正社員だった職場と同じ企業に正社員、定年再雇用、契約・嘱託社員として働いている人)でも5割強にすぎない。他の「上司のサポート」「取引先や人脈の伝承」については、4割に満たない状況だ。
この調査結果からは、60代社員に対しては周囲からの期待が低い、または期待があっても明確に伝えられる機会が少ないという傾向が読み取れる。
この世代になると、会社から指示や期待が降りてくるのを待っているだけでは、自身の立ち位置や存在意義が曖昧になりかねない。会社が自分に何を期待しているかを積極的に確認し、蓄積してきた知識や経験をどう生かせば組織に貢献できるのかを自ら提案することで、周囲の期待と擦り合わせていく主体的な姿勢が求められる。
長年の仕事で培ってきた知見やスキルは強力な武器になるが、全ての領域で万能というわけではない。
武器になる領域: 熟練した技術や品質管理(製造・素材領域など)、対人交渉、長年の信頼関係がものをいう仕事(建設・不動産やB2Bのルート営業など)、専門監修、後進の育成・メンターなどは、長年の経験や暗黙知が生きる仕事だ。
足かせになる領域: 変化の激しいデジタル分野、若い世代向けのマーケティング、デジタル前提の営業スタイルなどは、過去の成功体験がかえって足かせになるリスクがある。
自らの経験が生きる場所を見極めると同時に、必要に応じてこれまでのやり方を手放す「アンラーニング」、新しい知識・スキルを学び直す「リスキリング」をいとわないことが、長く活躍し続けるための鍵となる。
生成AIやこれから出てくる新しい技術について「若い世代に任せておけばよい」と考えているミドル・シニア世代もいるだろう。しかし、経験豊富な世代こそ生成AIを強力な武器にできる。
生成AIの勘所がつかめれば、長年の業務経験や業界知識、専門知識を持っているビジネスパーソンだからこそ「これをAIにやらせれば、業務スピードが100倍になる」「人手が必要だったこの業務が、自分とAIだけでできる」といった活用方法を見いだせるはずだ。
また、AIが生成したアウトプットの妥当性を判断するのに、これまでに培った勘や暗黙知が役に立つ。生成AIを味方につけることで、これまで以上に大きなインパクトを生み出すこともできるのだ。
役職定年の廃止は、ミドル・シニア社員の能力を生かしたい企業にとっては検討に値する取り組みだ。ただし制度が変わるだけでは不十分で、企業は評価や処遇に関する制度を総合的に見直す必要がある。個人としては、役職定年があるにせよ、ないにせよ、自らの活躍の仕方や能力を発揮する場を主体的に開拓していく姿勢が、50代後半からのキャリアと生活の充実には欠かせない。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
社員を抱えきれない時代に 早期退職だけが答えではない、「シニア副業」という一手
「辞めてほしいシニア」と「残ってほしいシニア」 企業はどこを見ているのか
Netflixの大規模リストラはなぜ成功した? 日本企業には真似できない大きな差
経営者「出社回帰で生産性向上!」社員「むしろ逆!」──この深刻なギャップはなぜ生まれるのかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング