危機対応では「何を話すか」と同じくらい「どの順番で話すか」が大切になります。被害を受けた顧客がまず知りたいのは、なぜ自分の資産や情報が危険にさらされたのか、被害はどこまで広がっているのか、補償はどうなるのか、といった具体的な内容のはずです。経営者の使命感がどれほど本物でも、相手が求める情報より先にそれを長く語れば、思いとは違う受け取られ方をしてしまうことがあります。
今回も、理念の説明そのものが問題だったというより、謝罪と説明を求められる場でそれをどこに置くか、その位置付けが難しかったのだと考えます。
もちろん、評価すべき点もありました。GMOは不正なFX取引による直接の損害を全額補償する方針を示し、攻撃者からの身代金要求には応じない姿勢を明らかにしました。長時間にわたって記者の質問にも向き合っています。
こうした取り組みと、会見でのコミュニケーションの課題は、分けて考える必要があります。企業が懸命に対応していることと、その姿勢が社会にきちんと伝わることは、残念ながら別の問題だと考えます。
今回の件には、会見の在り方以上に重い経営上の論点があります。
2024年4月、グループ内のセキュリティ専門会社は、問題となったサービスのシステム上の課題を指摘していました。しかし、その指摘は結果として十分な対策につながりませんでした。熊谷代表は会見で、当時その指摘は自分には報告されていなかったと説明しています。
ここで問いたいのは、経営者個人の責任だけではありません。専門家が分析したリスクを、どうやって経営判断に結びつけるのか。誰が重要度を判断し、どの段階でトップに上げるのか。そうした情報共有の仕組みが問われているのだと思います。そして、これは危機管理広報にもそのまま当てはまる問題です。
経営者が有事にSNSで発信しようとしたとき、広報担当者はその内容について率直に意見を言えるでしょうか。会見で経営者が本筋から離れた話をしようとしたとき、事前に軌道修正を提案できる人はいるでしょうか。「それは今、発信すべきではありません」と伝えられる人が、組織の中にいるでしょうか。
今回のGMOにそうした人がいなかったと言える判断材料はありません。ただ、どの企業にとっても考えておくべき問いであることは確かです。
特に創業経営者や強いリーダーシップを持つ経営者の場合、その一言が社内の意思決定を大きく動かします。平時には素早い判断や大胆な事業展開を支える強みにもなる一方、有事には周りが意見を言うことをためらう原因にもなり得ます。
経営者を支えるというのは、言われた通りに動くことだけではありません。必要なときには違う意見を伝え、本人が気付いていないリスクを示すことも、大切な支え方です。広報担当者も、経営者の言葉を外に伝えるだけの役割から、コミュニケーションの観点で経営判断に助言する役割へと変わっていく必要があります。
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