正念場迎える「楽天モバイル」 財務戦略に潜む苦難の実情:過去最大3700億円の赤字(4/5 ページ)
2022年度決算で、楽天グループ(以下楽天)は最終損益で4期連続かつ過去最大となる3728億円の赤字を計上。財務状況を分析した。
続々と償還期限迎える巨額社債
投資資金確保以外にも、楽天の資金面にはもう一つ大きな問題があります。それは主な資金調達手段として発行してきた社債が、6月以降に続々と償還期限を迎えるという事実です。
23年最大の注目は、12月の期限前償還条項付劣後債680億円の期限前償還ファーストコールです。ファーストコールとは、発行時に決めた償還可能日のうち、最初に到来する日のこと。必ずしもこの日に償還させなくてはいけない義務はありませんが、一般的には初回に償還するケースが多いです。これを見送ることは可能ですが、そうなれば同社の財務的な苦境を世間にさらけ出すことになり、株価や格付けに一層のマイナス要因となる可能性が高いのです。
格付に関しては、ただでさえS&Pが22年末に投機的水準である「BB」(ダブルB)への引き下げを発表しており、今後の社債発行に対する応募者の減少や利率の上昇は避けられない状況にあります。現実に国内では社債の引き受け手は少なくなっており、22年11月と23年1月に海外で発行した社債は、既に実質12%という高利回りに跳ね上がっているのです。
23年の社債償還額は先の劣後債680億円を含め約800億円ですが、24年は約3000億円、翌25年にはファーストコールを含め約5000億円もの巨額償還が待ち受けます。高い利率での借り換えを余儀なくされ有利子負債負担に一層苦しむことになるのか、別の資金調達手段によって償還対応するのか、はたまたこれは楽天の行く末を左右する大きな問題です。
資金調達が必要 でも策は限られる
別の資金調達手段の一つは、カードや保険など他の好調グループ企業の上場による持株売却、あるいは出資受け入れ、さらには売却という文字通り「身を削る」策のみでしょう。しかし各子会社は、どれも三木谷社長が目論む「楽天経済圏」の完成に向け不可欠なピースであり、一定比率以上の資本を手放すわけにはいかないという点がネックになります。少なくとも1兆7600億円の有利子負債を大幅に削減する決定打にはなり得ません。
となると残るは、三木谷社長が決算会見で口にした「親会社および子会社での戦略的業務提携・外部資本の活用」以外にありません。既に21年に日本郵政から1500億円、中国テンセントから約660億円、米ウォルマートから約170億円の出資をそれぞれ受け入れ、さらに22年、国内メガバンクグループのみずほFGから800億円の出資(楽天証券への20%の出資)も受けています。
通信事業は国家機密にも通じる領域ゆえに、テンセントからの出資は問題視された経緯もあり、海外資本からの更なる受け入れは難しそうです。国内でも、日本郵政やみずほFGとバッティングせず、かつ楽天との提携メリットを見出し資金的余裕のある先がどれほどあるのか。これも苦しい状況にあることは間違いありません。
もちろんいざとなれば、銀行団との契約で確保している手つかずのコミットメントライン1500億円があります。これは常々、楽天の手元流動性リスクを否定する根拠となっている資金枠で契約上はいつでも使えるのですが、これに手を付けるのは資金繰りの崩壊を意味し、もはやどこからも資金が引っ張れない状況をアナウンスするそんな最後の命綱であり、実質的には手を出せない資金なのです。
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