課題は山積み 担い手が安く使い倒されない仕組み作りが急務?
ただし、地方のライドシェア導入は、まだまだ課題も多い。養父市でも課題となっているのは「担い手の確保」だ。やぶくるではドライバーの報酬が料金の7割と、タクシー(通常だと5割程度)より多いが、それでも収入・負担が副業としても見合っていない現状がある。
1年で431人という利用者を日割りすると、稼働は2地区で1日1〜2件。ドライバーの報酬は多くて2万円、少なくて数千円となる。他に本業があるとはいえ、待機状態では行動を制約されてしまう。稼働がない時の保証も、迎車・回送の料金設定もなく、いわば「タクシーよりはるかに稼ぎどころが少ない」のだ。
やぶくるでも、Webサイトには「ドライバー募集」「募集延長」の告知が長らく掲示されるほど担い手の確保に苦戦している。河野大臣を乗せたドライバーの方も「副業としても制約が多い上に収入は少なく、地域貢献への思いがないとできない」と話していた。バスもタクシーも成立しない地域でライドシェアを導入したとしても、「善意」「地域貢献への熱意」頼みになってしまうと思われる。各地域での補助・バックアップも、結局は必要とされるだろう。
また、乗車時の安全面でも、ライドシェアは「ドライバーの健康管理」「クルマの維持管理」「保険」などの体制で、懸念が残る。
やぶくるを運営している小柴理事長も、養父市がライドシェアの検討を開始した当初にアメリカ・Uberの状況を調べ、安全管理・運営体制に「ドライバーに丸投げではないか?」という疑問を持ったと話す。そういった危機感もあり、やぶくるでは、通常の場合は朝・晩2回のみの呼気検査を稼働ごとに行うなど、安全面に配慮しているそうだ。
また、京丹後町「支えあい交通」の運営を行うNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」でも、対人・対物で無制限の団体保険2種類に加入しているという。今ライドシェアを運営している各団体は、求められている以上の体制を維持しているのだ。
国がライドシェアを本気で普及させるのであれば、安全面への取り組みの促進・補助(自主的な2種免許取得や、ライドシェア用団体保険の充実)、そしてタクシー協会・タクシーセンター並みに“不良事業者”を取り締まる、「ライドシェア業界」としての自浄作用のスキーム(枠組み)作りを、規制緩和と同時に行わなければいけない。
既存のタクシーがその役割を果たせるのなら、別に海外流のライドシェアにこだわらなくても良いはずだ。ただし、タクシー業界としての規制緩和やデジタル化、給料を含む待遇改善も、当たり前のように行われるべきだ。
なお、この記事を執筆している筆者も、全国1850系統のバス路線に乗車し、47都道府県のへき地をバス・クルマ・タクシーで行き尽くしたうえで、移動手段を保てなくなった地域の実情を、嫌と言うほど見てきた。
ライドシェアをやる・やらないにかかわらず、地域住民・利用者の役に立って、担い手が安く使い倒されない枠組み・移動手段を作り上げてほしいものだ。ライドシェアはあくまでも手段の一つであり、目的ではない。
宮武和多哉
バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。
また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。
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