帝国データバンクが実施した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2023年)によると、BCP策定率は18.4%。「策定意向あり」と回答した企業は48.6%となり、5年連続で5割を下回った。
地震や台風などの自然災害からサイバー攻撃に対する経営リスクに至るまで、BCPの重要性が叫ばれるものの、ノウハウ不足や人材確保ができず、思うように進まないというのが実情のようだ。
こうしたなか、「逃げ込める街」をコンセプトに掲げ、企業単位ではなく街全体のBCPに取り組んでいるのが森ビル(東京都港区)である。
大規模複合型再開発に取り組む同社は、六本木ヒルズ(03年竣工)の開発中に阪神淡路大震災の惨状を目の当たりにし、「逃げ出す街から逃げ込める街へ」をコンセプトに掲げるようになった。以来、災害時にも途切れない安定した電力の供給、帰宅困難者が避難できる場所の提供など、企業の事業や市民の生活に必要なインフラを守るべく、備えている。
自然災害が多発する日本において、特に重要なこのテーマに約20年前から取り組んでいるという同社。「逃げ込める街」とはいったいどういう街なのか――。災害対策室の細田隆課長に話を聞いた。
「木密」も解消 防災拠点をつくり逃げ込める街へ
森ビルは、港区の新橋近くで米穀店を営みながら貸家事業を始め、不動産業へと発展し今に至る。1955年、西新橋に2棟の森ビルを建てたことから始まり、アークヒルズ(86年)、虎ノ門ヒルズ(2014年)など、職住近接、都市と自然の共生、文化の発信を具現化したヒルズを中心に発展してきた。
「逃げ出す街から逃げ込める街へ」――。このコンセプトを打ち出したのは六本木ヒルズを開発中のことだ。同時期に阪神淡路大震災が起こり、直下型地震の惨状を目の当たりにしたことが影響している。神戸市の長田区や灘区など、木造の建造物がひしめく木密地域かつ、大きな消防車が通れる道も少ないエリアでは、燃え広がる火災を消火できず、燃え尽きるのを待つしかない……。そんな状況だった。
こうした防災上の課題は、六本木ヒルズの周辺にもある。そこで同社は、同様の事態が発生した場合、一時的にヒルズ内に避難し、地域の避難所が開設されるまで凌げる場所にしようと考えた。自社が手掛ける再開発事業によって街の防災拠点をつくる。そのためのスローガンとして考えたのが「逃げ込める街」である。
直近23年に竣工した麻布台ヒルズにも、このコンセプトが反映されている。建物だけでなく、周辺の道路整備などの基本的なインフラ整備も整えたことで、地域住民からは「子どもたちにも安心して住んでもらえる場所になった」という声もあるという。
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