なぜ最近の新幹線駅は「巨大駐車場併設」が増えているのか 各地で見えてきた実情と課題:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(2/4 ページ)
2015年に金沢市に、24年に敦賀市に到達した北陸新幹線は、マイカー用の駐車場だけでなく、クルマユーザーへの配慮が至る所で見られる。いまの時代はなぜクルマユーザー対応駅が求められているのか。まずは、実際に北陸新幹線・越前たけふ駅に行って検証してみよう。
無料駐車場が移住者を呼び込んだ事例も
ここからは、全国の「クルマユーザー対応・新幹線駅」の様子を見てみよう。
1990年に開業した東北新幹線「くりこま高原駅」(宮城県栗原市)は、他地域に先駆けて500台のマイカー用の駐車場を整備。「パークアンドライド」(自宅から最寄り駅まではマイカーで移動し、そこから公共交通機関で目的地に移動すること)で一定の成功を収めた。
この駅がある栗原市は人口6万人強。都市としてそこまでの規模はないが、新幹線を使えば仙台市内に25分で通勤できるため、ベッドタウンとしての需要は見込める。しかし地域のバス会社(宮城交通)は連絡バスの運行もおぼつかないほど困窮しており、開業当時の栗原郡10町村(現在の栗原市の前身)は、「バスはなくとも、クルマから新幹線に乗り継いで通勤できますよ!」という地域一帯のアピールで移住者を呼び込み、くりこま高原駅の利用者を増やそうとしたのだ。
この戦略は当たった。1日当たり600人、多くても850人と見積もっていた駅の利用者は、無料駐車場から新幹線に乗り換えるユーザーの増加によって、開業年の年度末には1日平均1300人を突破。翌年には1700人を超えたという。
利用実態を見ると、駐車場が十分でなかった近隣の新幹線駅(一ノ関駅・古川駅)周辺からも多く利用されていたという。栗原郡・栗原市はいわば、無料駐車場の整備を先がけて、クルマユーザーの潜在需要を首尾よく巻き取った、といえるだろう。
しかし無断駐車が非常に多く、他地域と同様に満車によるトラブルも続発。ゲート管理移行・利用者以外の駐車場有料化を打ち出したものの、地域全体で「そんなことをしたら、移住者が来なくなる!」との声が上がり、市議会が紛糾する騒ぎとなってしまった。
利用者へのサービスの一環として駐車場無料施策が当たり前になってしまうと、後から管理体制を変更する際に、ハレーション(周囲への悪影響)が起こりがちなのだ。
そこそこの利用者獲得につながるとあって、近年開業した新幹線駅では、クルマユーザーのための駐車場整備が当たり前になってきた。11年に全通した九州新幹線、14年に開通した北海道新幹線、22年に一部開通した西九州新幹線ともに、駅前駐車場の整備に力を入れている。
九州新幹線・新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)は利用無料ではないものの、24時間ごとに300円というお得な駐車場が、市営・民間合わせて600台以上整備されている。周辺では「鳥栖筑紫野道路」など主要道路が東西・南北方向にクロスし、20キロ以上西側の県庁所在地・佐賀駅周辺からのクルマユーザーを獲得しているという。
ただ、クルマ移動の利用者が佐賀駅を避けて新鳥栖駅に移動するという実情は、「佐賀駅に新幹線はいらない」(わざわざ新幹線の支線を引き込まなくても良い)という、西九州新幹線の建設反対の遠因にもなっている。
ほか、西九州新幹線では嬉野温泉駅(佐賀県嬉野市)が約270台の無料駐車場と道の駅を整備。新大村駅(長崎県大村市)では約300台の有料駐車場と、スーパー「ゆめマート」や無印良品などが入居するショッピングモール「サクラミライ新大村」が24年に開業。今後は大村市のあたらしい都心部として、駅前のバイパス道路とともに開発が進みそうだ。
今どきの地方の新幹線駅に必要なのは、駐車場だけではない。開発の余地がない昔ながらの市街地に代わって「クルマ社会化に対応した新幹線駅を中心に新しい街をつくろう」という強い意志がないと、なかなか成功しないだろう。
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