なぜ最近の新幹線駅は「巨大駐車場併設」が増えているのか 各地で見えてきた実情と課題:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/4 ページ)
2015年に金沢市に、24年に敦賀市に到達した北陸新幹線は、マイカー用の駐車場だけでなく、クルマユーザーへの配慮が至る所で見られる。いまの時代はなぜクルマユーザー対応駅が求められているのか。まずは、実際に北陸新幹線・越前たけふ駅に行って検証してみよう。
「鉄道VS.航空」仁義なきユーザー獲得合戦では駐車場が武器に?
クルマユーザーのための駐車場整備は、利用者獲得だけでなく、他の交通機関との競争の切り札に使われる場合もある。瀬戸内海を挟んだ山口県南部・福岡県北九州市では、山陽新幹線(新岩国駅・厚狭駅・新下関駅・小倉駅)と航空(山口宇部空港・北九州空港)が利用者の争奪戦を繰り広げ、双方が駐車場整備に力を入れている。
“駐車場戦争”の口火を切ったのは、山口県側の「山口宇部空港」(以下:宇部空港)だ。1966年に開業したこの空港は、のぞみ増発で利便性が向上した山陽新幹線にシェアを奪われ、かつ同年に対岸の福岡県側に「北九州空港」が移転・開業したことで、下関市(人口約26万人)など同県内のユーザーを奪われる危機に瀕(ひん)していた。
なお当時は、福岡県側の北九州空港のPR隊が山口県側でPRを行ったことに山口県側が不快感を示すなど、鉄道・航空の枠を超えた、地域のメンツを賭けた利用者争奪戦が行われていたようだ。
宇部空港は約1300台に及ぶ大規模な無料駐車所を整備しており、「週末に車を止めて東京へ、週明けに飛行機で戻ってクルマで帰る」という利点のPRによって、一時期は「4:6」にまでなっていた山口県〜東京間での「鉄道VS.航空のシェア」を、3:7に押し戻したのだ。
対して、JR側も厚狭駅などに利用者駐車場を設けて抵抗したが、山口県内の4駅は在来線(JR山陽本線)に併設された市街地の駅であり、郊外に作った空港ほど駐車場を拡張できなかった。もっとも、新幹線が「のぞみ」停車の増加などで利便性が向上したこともあり、新幹線・航空は一進一退のまま今もシェア争奪戦を続けている。
また、最寄りの鉄道駅から10キロ以上も離れている茨城空港(茨城県小美玉市)は、2010年の開港当時から、約3600台の無料駐車場でクルマユーザーを取り込もうとしていた。
地元である小美玉市・石岡市周辺の人口は限られ、人口が多い南側の柏市・取手市などは羽田空港への利便性も良かったため、茨城県は自前の空港を持たない栃木県のクルマユーザー獲得を目指したキャンペーンを展開。開通したばかりの北関東道を経由すれば、茨城空港へのクルマでのアクセスが良好であることをアピールした。
2022年、イメージキャラクターには栃木県民になじみ深い漫才師「U字工事」を起用し、「駐車場を栃木県民で埋め尽くして、(茨城空港を)『栃木空港』にしっちゃーべ!」(栃木弁で「栃木空港にしてしまえ」の意味)」と書かれたポスターを掲示した(画像:茨城県プレスリリースより)
その効果は定かではないが、駐車場で「とちぎ」「宇都宮」ナンバーを見かけることが多くなったという。こういった利用促進策は茨城空港に航空会社(スカイマーク・タイガーエアなど)をつなぎとめる役割を果たしており、クルマユーザー用の駐車場の整備は、さまざまな役割が期待できるといえるだろう。
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