なぜ最近の新幹線駅は「巨大駐車場併設」が増えているのか 各地で見えてきた実情と課題:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/4 ページ)
2015年に金沢市に、24年に敦賀市に到達した北陸新幹線は、マイカー用の駐車場だけでなく、クルマユーザーへの配慮が至る所で見られる。いまの時代はなぜクルマユーザー対応駅が求められているのか。まずは、実際に北陸新幹線・越前たけふ駅に行って検証してみよう。
宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業してから昭和末期頃までの新幹線駅は、在来線の主要駅に併設されるケースがほとんどだった。新幹線単独で開設された駅も、連絡バスでアクセスする場合が多かった。
しかし、ここ20年間で開業した九州・北海道・北陸新幹線の駅では、これまでとはちょっと違う傾向が見られる。すぐ近くには数百台の駐車場が整備され、在来線や連絡バスより、マイカーや家族の送迎で駅に向かう乗客の姿が目立つ。
駅前に既存の市街地はなく、あってもレンタカーの事務所や交流施設など。他の地域から来た人からすると「何でこんな田園地帯のド真ん中に新幹線駅が?」と疑問を抱かれてしまう場合も多い。しかし、クルマ社会化が進んだ地方では、市街地化よりマイカー用駐車場の整備を優先した「クルマユーザー対応の新幹線駅」が、現状では最適解なのだ。
2015年に金沢市に、24年に敦賀市に到達した北陸新幹線でも、マイカー用の駐車場だけでなく、クルマユーザーへの配慮が至る所で見られる。いまの時代はなぜクルマユーザー対応駅が求められているのか。まずは、実際に北陸新幹線・越前たけふ駅に行って検証してみよう。
駐車場「600台」でも足りない?新幹線駅
24年3月に開業した北陸新幹線の6駅の中でも、「越前たけふ駅」(福井県越前市)は在来線の接続がない。かつ、これまで越前市の主要駅であった武生駅(ハピラインふくい、旧:北陸本線)からの連絡バスは1〜2時間に1本、かつ新幹線への接続がいまひとつで、10分少々で運賃500円と使いづらい。その代わりに整備されているのは、約600台の無料駐車場だ。
この周辺では、もともと在来線の武生駅・鯖江駅などにクルマを停めて、東京・大阪方面に向かう利用者が多かったが、どちらも古くからの門前町(寺院・神社を中心に形成された街)であるがゆえに車でのアクセスが不便で、かつ駐車場を増設しようにも土地がないという悩みを抱えていた。一方で、新幹線が停車する越前たけふ駅の周辺はもともと未用途の土地であり、「非線引き区域」(市街化調整区域などの枠を定める必要がない地域)であるがゆえに、比較的自由な開発を行うことができた。
越前市はこの場所に「駅西交通広場」を整備し、名古屋方面への高速バスが1日10本停車するバス停も新設。駅は市街地から3キロほど西側に離れているものの、福井バイパス(国道8号)や北陸道・武生ICにほど近い立地を生かして、600台の無料駐車場で「マイカー→新幹線・高速バス」といった利用をしてもらう施策を取った。
また、この交通広場に併設して23年に「道の駅・越前たけふ」が先行開業。新幹線駅は待合室と自動販売機くらいしかない簡素な構造でもあり、利用者は道の駅で時間をつぶし、手土産を購入して新幹線・高速バスに乗車できる。これらの整備はJR西日本に頼まれたわけでなく、「駅の利用促進をJR任せにしない」という地元の意思に沿って行われたものだ。
しかしこの駅は、開業早々に問題が発生している。肝心の駐車場がすぐに満車となってしまい、利用者から「空きスペースを探している間に、新幹線に乗り遅れた」といった苦情が相次いでいるそうだ。なお、この駐車場はゲートなどがない(俗にいう「青空駐車場」)ため、利用者でなくてもクルマを停めることができる。
同じ北陸新幹線でも、15年に新幹線駅として開業した新高岡駅(富山県高岡市)では、越前市と同様に「駐車場が満杯」というトラブルが相次いだ。その結果開業1年後に、無料開放していた駐車場を有料化し、「7日間まで駐車無料」(改札内の機械に駐車券を通して認証)としている高岡中央駐車場(751台)に誘導した。
この駅も高岡駅(あいの風とやま鉄道)や市街地から2キロほど離れ、接続するJR城端線の本数は少なく、クルマユーザーの利便性向上のために6カ所・807台の駐車場が整備された。駐車場不足による有料化後も利用者はむしろ増加し、駅の乗降客も微増、4000人を突破した。
予約専用駐車場も用意しているが、その利用客の7割が近隣の能越自動車道から能登半島へ向かう観光客であったという。駅前駐車場・取次道路を含めて104億円(半額を市が負担)という巨額の投資は、新たな能登半島への玄関口として機能しており、一定の効果があったといえるだろう。
しかし、この財政負担は高岡市の重荷となり、程なく40億円もの歳出超過(財源不足)に苦しむようになる。クルマユーザーのための駐車場・アクセス道路の整備は一定の効果があるものの、費用に見合った効果が明確に出るわけでもなく、ともすると“ムダ遣い”との批判を浴びやすいという問題を抱えている。
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