本田雅一のCar Style:トータルでの環境負荷という考え方とその着地点――フォルクスワーゲン(3)

「知らなかったフォルクスワーゲン」も今回が最終回。クルマ作りにおいても環境問題でも、日本メーカーにはないユニークなポリシーを掲げて取り組んでいる同社を紹介してきたが、今回はフォルクスワーゲンのエネルギー戦略について総括してみたい。

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質実剛健? 実は熱っぽく感性に響くクルマ――フォルクスワーゲン(1)
日本人の多くはフォルクスワーゲンという自動車メーカーを良く知らない。大衆車のイメージがあるが実は日本メーカーにはないユニークなポリシー、考え方のもとに多くの車を生み出している。そんな「知らなかったフォルクスワーゲン」の一面を紹介しよう。


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“ひとつの技術・燃料に偏らない”が生んだTSI/TDI――フォルクスワーゲン(2)
原油価格の高騰で注目されている「クルマの環境対策」。ここでもフォルクスワーゲンは、日本メーカーにはないユニークな取り組みが行われている。“ひとつの技術・燃料に偏らない”という方針から生まれたエンジン「TSI/TDI」とは?


トータルでの環境負荷という考え方

 前々回前回とお届けした「知らなかったフォルクスワーゲン」。今回がその最終回となる。前回までは、クルマ作りにおいても環境問題でも、日本メーカーにはないユニークなポリシーを掲げて取り組んでいる同社を紹介してきた。今回は、フォルクスワーゲンのエネルギー戦略について総括してみたい。



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 日本の乗用車のほとんどがガソリン車ということもあり、普段の日常生活ではあまり意識されることはないだろうが、実は日本では軽油が余り気味だ。同じ量の原油を精製すれば、同じ割合だけ軽油とガソリンが取れる。その比率は一定であり、必ずしも消費される油種の割合と一致するわけではない。

 つまり、ガソリン消費の多い日本では、軽油は余り気味になる。ところが同じことは欧州にもいえる。元々、ディーゼル人気の高かった欧州市場は、昨今、さらにディーゼル車の比率が高まっておりガソリンは余り気味。

 このような必要な油種のバランスが崩れることはよくある話で、以前から石油会社は業者間取引を活発に行ってきた。しかし、上記のように地域ごとで大量の燃料が余る状況になると、地域間の輸送という問題が出てくる。

 たとえば日本は欧州からガソリンを買い、欧州は日本から軽油を買うという取引がすでに加速してきているが、この動きがさらに進んでいくと、”燃料を輸送するために必要な燃料”を無視できなくなる。

 フォルクスワーゲンがTSIエンジンを開発した動機がここにある。つまり低燃費かつパワフルなガソリンエンジンを開発することで、欧州では余っているガソリンを活用しつつ二酸化炭素排出量を抑えようというのが目的だ。

photo 燃料およびパワートレインに関するフォルクスワーゲンの戦略

 日本でTDIエンジン搭載車を投入する決定を下したのも、日本での環境意識の高まり、ガソリン価格高騰といったタイミングの良さに加え、消費油種のバランスを補正しようという意図が見えてくる。渋滞の多い日本とはいえ、地域ごとの事情に合わせて正しいエンジンの選択を顧客に促せば間違った結果にはならないだろう。環境への意識が高まっている今ならば、日本でもディーゼル車を良い形で販売できる。

 こうした状況が見えてきた近年、日本の自動車メーカーも高性能クリーンディーゼルの開発に力を入れ始めてきた。たとえばホンダは2006年に新型ディーゼルエンジンを発表。アメリカでは2008年に搭載車を投入する予定だ。

 近年では車の環境負荷を単純な燃費や燃料消費時の排出ガス量などだけではなく、エンジンの製造、燃料の調達、古くなった車の処分に関わるトータルの環境負荷で評価するという考え方に変化してきている。たとえばハイブリッドの場合は搭載バッテリの製造、廃棄にまつわる環境負荷、エタノール燃料車ならばエタノールの製造(あるいは原料栽培)にかかわる環境負荷を考慮しなければならない。

photo バイオ燃料間でも大きな差:第2世代バイオ燃料はほぼ完結したCO2サイクルを有する。使用する加工用エネルギーによっては、第1世代バイオ燃料は、そのライフサイクル全体を考えると、化石燃料よりも多くのCO2を発生する

 そうした中で、ディーゼルエンジンのさらなる開発と、軽油精製時に生まれるガソリンの有効的な活用といった現実的な視点で車を作ってきたのが欧州メーカーともいえる。これはフォルクスワーゲンのエネルギー戦略の基本的な部分だ。

理想的な着地点へと至る航路の違い

 では日本のメーカーは? というと、もちろん、現在はディーゼルエンジンに関して大手はきちんとねらいを定めて戦略的に動いている。ただし、長らく継続的にディーゼルエンジンを開発してきた欧州メーカーに、燃料電池とハイブリッド先行で投資を続けてきた日本メーカーが追いつくのは相当に困難なことだ。欧州メーカーがハイブリッドで日本メーカー(特にトヨタ)に簡単には追いつけないのと同じである。

 これは車に限ったことではないが、実際に商品化し、量産を続けながら培ってきたノウハウは、決して研究開発だけでは乗り越えることができない。

 自動車の動力源は最終的には燃料電池や充電型バッテリを用いた電気自動車になっていくというビジョンは、どのメーカーも同じだ。しかし、そこに至るまでの経路が違うだけともいえる。日本に住み、日本の自動車メーカーばかりをウォッチしていると、ガソリンの次はハイブリッド。その次はバイオ燃料で、その先に電気自動車という道筋しか見えてこないが、実際にはもっと多くの選択肢があることは知っておきたい。

 一部には「次の世代は“高性能クリーンディーゼル+ハイブリッド”へと行き着く」という意見もある。実際、製品開発を表明しているメーカーもある。ところが、フォルクスワーゲンに取材してみると、彼らはハイブリッド車をすでに開発しているにもかかわらず、今後はハイブリッドの方向に大きく振れることはないという意見が聞かれた。

 ご存じのようにハイブリッドは回生発電で生まれたエネルギーを蓄積し、それを動力のアシストとして利用している。しかし普通にエンジンが回って動いている時には、単なる小排気量のガソリンエンジンだ。回生発電により回収するエネルギーを最大限に生かすには、エンジンストップを積極的に行う必要がある。

 ところが蓄積した電気エネルギーだけでは、わずかな距離しか走れないため、完全にアイドリングストップしている時間というのは、長い下り坂や渋滞路以外では実はあまりない。渋滞路でもバッテリが少なくなると、すぐにエンジンがかかって充電をはじめる。

 フォルクスワーゲンは”現実解”として、ハイブリッドがもたらす経済的利点や製造・廃棄にかかる環境面での負荷、それにコストを比べた場合、同じくハイコストな高性能クリーンディーゼルの両方を1台の車に盛り込むというのは、商品として難しいと考えているという。

 その代わりに多様なエネルギー源を求める方向での開発を行う”ひとつの技術に偏らない”という方針を貫く。ディーゼルの次は天然ガス、それにバイオ燃料(穀物を利用したものではなく、木屑など食物以外の材料を用いたもの)、そして少し先に水素や燃料電池、充電型バッテリがある。

photophoto フォルクスワーゲンの研究用モデル:バイオ燃料「SunFuel」を燃料とする黄色いニュービートル カブリオレ

 多様性を求めるのは、日本と欧州の事情が異なるのと同じように、世界各国、地域ごとの事情の違いがあるからだ。たとえば天然ガスが豊富な資源としてある国ならば、高効率化した天然ガスエンジンを使うのが、燃料調達にかかる環境負荷を考える上でもベストだろう。バイオ燃料の資源が多い国ならば、それも然りだ。

 トータルの環境負荷を下げることが目的ならば、地域ごとに最適なエネルギー戦略をとるのがベスト。それを研究開発と将来の商品展開で実現していこうというのがフォルクスワーゲンの考え方というわけだ。

本田雅一

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テクノロジーを起点に多様な分野の業界、製品に切り込むジャーナリスト。記事執筆、講演の範囲はIT/PC/AV製品/カメラ/自動車など多岐に渡る。Webや雑誌などで多数連載を持つほか、日本経済新聞新製品コーナー評価委員、HiViベストバイ選考委員などをつとめる。専門誌以外にも、週刊東洋経済にて不定期に業界観測記事を執筆。現在の愛車はブルーのGOLF R32。

車歴:ファミリアINTERPLAY DOHC、レガシィ・ツーリングワゴンGT-B、ステージアRS Foure-V、レガシィB4 RSK、GOLF R32


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